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[【事業承継】中堅中小企業の事業承継M&A ~会計税務の実務上の頻出論点~(M&Aキャピタルパートナーズ)]

(2019/10/21)

【第5回】対象会社に繰越欠損金や資産の含み損がある場合の取り扱い~買収により節税効果を享受できるか?

桜井 博一(M&Aキャピタルパートナーズ 企業情報第二部 公認会計士・税理士)
はじめに 

 第4回ではスキーム検討時における非事業用資産の切り離し、事業用資産の買い取りに関する実務上のポイントについて解説しました。

 今回の第5回では、買収対象となる対象会社に繰越欠損金や資産に含み損がある場合の基礎的な取り扱いについて解説します。

 対象会社に繰越欠損金や不動産などの資産に含み損がある場合、対象会社の将来の税金支払額を減少させる可能性が生じ、買収価額にも影響が出るため、買手会社の担当者より、買収によって節税効果を享受できるかどうか、といった質問を受けることが多々あります。

 実務上、スキームや買収価額を検討する上では、繰越欠損金や資産の含み損を活用した節税の有無が重要な論点と成り得るため、事前に当該影響を把握・認識しておくことが重要となるからです。

 本稿では繰越欠損金の実務上のポイントを中心に解説します。

そもそも繰越欠損金とは

 一般的な法人では、一事業年度に損失が生じた(税務上の損金が益金を上回った)場合、当該損失は欠損金として一定期間繰越すことができ、翌期以降に生じた所得に充当することができます。すなわち、繰り越した欠損金(以下、「繰越欠損金」という。)は、将来の税金を減額する効果があるといえます。

 一方、繰越欠損金は繰り越せる期間が税法上定められており、各期に発生した繰越欠損金がいつまで繰り越せるかという使用期限を事前に確認する必要があり、また、その全額が充当できるのは原則として資本金1億円以下の中小法人のみであり、一定の法人では、繰越欠損金の内、一定額までしか充当することができない点にも留意が必要です。
 
〇期間
 ・平成20年4月以後終了事業年度発生分・・9年
 ・平成30年4月以後開始事業年度発生分・・10年
〇充当金額に制限がある法人
 ・資本金1億円超の法人
 ・資本金5億円以上の法人による完全支配関係がある法人
 ・完全支配関係がある複数の資本金5億円以上の法人に100%保有されている法人
〇制限がある法人における制限額
 ・平成28年4月以後開始事業年度・・60%
 ・平成29年4月以後開始事業年度・・55%
 ・平成30年4月以後開始事業年度・・50%

 上記の通り、資本金1億円超の法人や資本金5億円以上の大企業の子会社の場合、充当金額に制限がかかるため、M&A後に上記に該当するようになった場合についても、その影響について事前に確認が必要といえます(なお、繰越欠損金だけでなく、他の中小法人向けの税制優遇も使用できなくなるため、そちらも留意が必要です)。

繰越欠損金による節税効果を享受するには

 単純な株式譲渡によるM&Aを前提とした場合、対象会社の繰越欠損金を使用もしくは取り込むには以下の3つが考えられます。

1. 単純に対象会社の利益を向上させ、対象会社で繰越欠損金を利用する
2. 対象会社と買手会社で適格合併をする
3. 対象会社を清算させる

 なお、上記2および3では、買収を利用した租税回避を防止するために、様々な税法上の制限が設けられており、繰越欠損金を買手会社に取り込むこと(単に買手会社の節税)のみを目的としたM&Aは、原則できないような規定になっています。上記のそれぞれのパターンについて解説していきます。

1. 単純に対象会社の利益を向上させ、対象会社で繰越欠損金を利用する

 対象会社の繰越欠損金を利用できるかどうかについては、まず、対象会社自身で利益を計上することで、繰越欠損金の全額を使用期限内に利用できるかを確認する必要があります。

 仮に、業績不振の同業の会社をM&Aで買収する場合、何らかのシナジーを期待してM&Aを実行するケースが多いかと言えます。その場合、買収前に対象会社に利益が出ていなくても、M&A後に業績が回復し、利益が出るような計画や見込みがあれば、あえて繰越欠損金を買手会社に取り込むような手法を検討すること自体が不要になるといえます。

 したがって、まずは対象会社で繰越欠損金を期限内に全額使用できるかどうかを検討し、当該可能性を買収価額にも反映させる必要性があるかどうか、確認する必要があります。

2.対象会社と買手会社で適格合併をする

 対象会社の繰越欠損金を買手会社が取り込む手法として、M&A後に100%子会社となった対象会社を税制上適格とされる合併(以下、「適格合併」という)をすることで、買手会社が対象会社の繰越欠損金を引き継ぐという手法も存在します。

 一方で繰越欠損金の引継ぎには、不当な租税回避を防止するため、一定の制限が設けられており、合併のパターンによって次のケースに分けられます。

子会社化後5年超の合併
 50%超の支配関係が5年超経過※している場合に適格合併を行った場合、繰越欠損金の全額を引き継ぐことができ、特に繰越欠損金の引継ぎに制限はありません。
 
 M&Aをしてから5年が経過していれば、既に買手会社と関係が深い会社となっている上、5年後の租税回避を目的としてM&Aを行う会社は限りなく低いといえるでしょう。

※厳密には買手企業の合併日が属する期の開始日から5年前の日以後継続した後(以下同様)

子会社化後5年以内の合併(みなし共同事業要件を満たさない場合)
 M&A後、5年以内の合併は租税回避を目的としたM&Aを防止するため、みなし共同事業要件を満たさない場合、子会社化する前に対象会社に生じた繰越欠損金は全額が切り捨てられ、買手会社は引き継ぐことはできません。

 なお、子会社化された後に発生した繰越欠損金は原則、買手会社が引き継ぐことができますが、不動産等の特定資産の譲渡損等により発生した繰越欠損金は引き継ぐことができない点に留意です。これは、繰越欠損金は発生していなくとも、不動産等の資産に含み損を抱えている会社を買収することで、買収後に欠損金を生じさせて租税回避を図るという抜け道を防止するための規定といえます。

 
子会社化後5年以内の合併(みなし共同事業要件を満たす場合)
 上記②のように、子会社化後5年以内の合併は子会社化前の繰越欠損金を引き継ぐことが原則できませんが、お互いにシナジーを生むような関係、いわゆる「みなし共同事業要件」を満たす場合、繰越欠損金を引き継ぐことができます。

 みなし共同事業要件とは、次の①~③又は①及び④のいずれかの要件により判定します。

事業関連性要件・・事業が関連しているかどうか
事業規模要件・・売上規模や従業員数が5倍を超えないかどうか
事業規模継続要件・・買収後、概ね事業規模が維持されているかどうか
経営参画要件・・対象会社の役員が合併後も役員を継続するかどうか

 上記の細かい要件は本稿では割愛しますが、みなし共同要件を満たすということは、あえて合併をしなくても、互いのシナジーにより、対象会社で利益を計上することができれば、結果として繰越欠損金を対象会社内で使い切ることもできるため、同業の会社同士が合理的な理由で合併を行うことを許容しているものといえるでしょう。

3.対象会社を清算させる

 対象会社を清算させる場合は、上記2の適格合併する場合と税法上の考え方や制限は基本的に同じです。50%超の支配関係から5年超が経過していれば、全額を引き継ぐことができ、5年以内の場合は、適格合併と同様に制限がかかります。

 ただし、清算の場合において、適格合併と異なる点として、みなし共同事業要件の判定がないことと、完全支配関係があることが要件となるため、50%超の支配関係が5年超経過していても、全額を引き継ぐためには、事前に100%子会社にする必要がある点に留意が必要です。

 また、完全支配関係がある子会社を清算した場合、繰越欠損金を全額引継ぐことができる一方、子会社株式消滅損を損金算入できないというデメリットもあるため、100%子会社で繰越欠損金を引き継ぐよりも、50%超100%未満で、子会社株式消滅損を損金算入する方がメリットが大きいと判断するケースもあるため、十分な検討が必要といえます。

適格合併の場合、買手企業の繰越欠損金にも影響する可能性にも留意

 子会社化後5年以内の適格合併を行った際、買手会社(合併法人)の繰越欠損金にも対象会社と同様の使用制限が課されることに留意が必要です。これは、対象会社側だけ制限をすると、合併する側とされる側を逆にする、いわゆる「逆さ合併」を行うことで、対象会社の繰越欠損金を利用できるようにするといった租税回避を可能としてしまうことが背景に挙げられます。

 そのため子会社化後5年以内の適格合併を行った場合、子会社化する前の買手会社の繰越欠損金が消滅する可能性があることに留意が必要です。

対象会社が不動産等の資産に含み損を抱えている場合の取り扱い

 対象会社に繰越欠損金は発生していないが、不動産等の資産に含み損があるケースにおいて、上記と同様、当該含み損にて節税効果を享受できないか、といった質問を受けることもあります。こちらについては、先述した通り、M&A後に売却損を顕在化させ、合併を行ったとしても、制限がかかる可能性があるため留意が必要です。

 まずはM&A後に、対象会社内で当該含み損を顕在化させ、翌期以降の所得に充当できないか、検討すべきといえます。

おわりに

 対象会社に繰越欠損金が生じている場合、将来の税金減少額を見越して買収金額を決定していく必要があるため、繰越欠損金や資産の含み損に対し、節税効果を享受できるかどうかを事前に検討することは非常に重要な論点となり得ます。

 また、複雑な税務上の判断が必要なケースもあるため、実務で同様のケースに遭遇した際は、早めに専門家やアドバイザーに相談する必要性があるといえるでしょう。

 次回の第6回は、事業承継M&Aにおける「のれん」の取り扱いについて解説を予定しています。


■ M&Aキャピタルパートナーズ

■筆者経歴
桜井 博一(さくらい・ひろかず)
大学在学中に公認会計士試験に合格後、卒業後は三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。中堅中小企業向けの融資業務や再生支援業務等を経て、株式会社KPMG FASにて中堅・上場企業向けの財務・事業デューデリジェンス業務を中心としたM&Aアドバイザリー業務に従事した後、M&Aキャピタルパートナーズ株式会社に参画。物流業界を中心に、飲食業界、アミューズメント業界等、幅広い中堅中小企業のM&A仲介業務に従事している。 



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