[Webインタビュー]

(2023/09/15)

【第163回】勢いを取り戻すM&A、グローバルCEOの71%がAIを活用してディール戦略を強化

――「The CEO Outlook Pulse survey July 2023」から見えるグローバルCEOの意識

梅村 秀和(EYストラテジー・アンド・コンサルティング 代表取締役)
  • A,B,C,EXコース
梅村 秀和
<目次>
  • 21カ国、1200人のCEOを調査
  • 景気後退に対する深刻度は低下
  • 地政学的リスクへの対応を意識
  • 資本配分の戦略
  • 自己資金での買収が拡大
  • AI分野の投資に意欲
  • M&AプロセスでのAI活用が拡大
  • PBR1倍割れ、日本企業のM&Aに注目

21カ国、1200人のCEOを調査

―― アーンスト・アンド・ヤング(Ernst & Young、以下EY)は、このほど調査レポート「The CEO Outlook Pulse survey July 2023」を発表しました。調査の対象、目的等の概要を教えてください。

「本調査は、AI、資本配分、投資、サステナビリティ、トランスフォーメーションに関する戦略についてのグローバルCEOにインサイト(洞察)を提供することを目的として行われています。

 もともとは『キャピタル・コンフィデンス・バロメター(CCB)』という名称で、CEOだけでなくCxO(Chief x Officer)も含めて調査を行っていたのですが、最近はCEOにフォーカスして調査を行っております。調査はフィナンシャル・タイムズのグループ調査会社に請け負っていただき、四半期に1回、定期的に実施しています。

 今回の調査対象は21カ国、1200人のCEOで、調査期間は2023年6月、7月の2カ月間に行いました。1200人のCEOのうち70人が日本企業です。

 回答いただいた企業セクターは、アドバンスド・マニュファクチャリング(先進的な製造業)、モビリティ、消費材、小売、エネルギー、金融、ライフサイエンス、ヘルスケア、テクノロジー、メディア・エンターテイメント、テレコムということで、ほとんどのセクターにわたっています。

 対象企業の規模は、USドルベースで5億ドル未満、5~10億、10億~50億、50億以上という4つのカテゴリーがほぼ4分の1ずつになりますが、10億ドル以上の企業が約6割を占めていますので、比較的大きな企業のCEOを対象として行っている調査になります」

景気後退に対する深刻度は低下

―― 調査結果について解説いただけますか。

「調査内容は、マクロ経済、キャピタルアロケーション(資本の配分)、M&A・トランスフォーメーション関連、AI、サステナビリティとけっこう盛りだくさんの内容について質問させていただいています。

 まずマクロ経済についてですが、前回行った23年1月の調査に比べて若干景気後退に対する深刻度は低下しています。ただし、これがどれくらい続くのかという観点では、逆に長期化を予測しているCEOが多く見られました。例えば、『経済の一時的もしくは継続的な深刻な後退』と回答をしているCEOの割合は、1月時点では50%(日本59%)あったのが今回は33%(日本31%)に減っています。一方で、『深刻度は中程度だが長期にわたる』と答えた方の割合が36%から41%まで上昇しています。また、『短期』と回答したCEOの割合が25%となっていますから、景気後退に対する深刻度に関しては、決して景気低迷が払拭されたわけではないと捉えていることが読み取れます。

 ただ興味深い点は、『全体の経済』と『自社の営業拠点』に分けた質問への回答で、自社の営業拠点に関しては比較的楽観的な回答が多いことです。『重大なインパクト』が前回の56%から今回は31%に減少し、『中程度』と回答したCEOが67%でしたから、インパクトについては下がっています。しかも『中程度』と回答した中でも、『短期的』が37%、『中期的』が30%となっていまして、自社の営業拠点へのインパクトについてはより楽観的になっていることが読み取れます。

 『自社の業績見通し』について見ると、『楽観的』と見ているCEOが47%、一方、『より悲観的になった』との回答が36%と2極化しています。業界にもよると思いますが、自社の営業拠点については比較的楽観的という回答が多かったことと関連していると考えられます」

地政学的リスクへの対応を意識

「同様に危機管理に関しても同じように回答が2極化しています。危機管理に関して『今後12カ月で地政学、マクロ、規制、ESG(環境、社会、ガバナンス)、サステナビリティ、デジタルテクノロジー関連の各リスクがどの程度貴社に対して影響を与えますか』という質問に対しては、『かなり重大だ/かなり大きなインパクトを与える』という回答が、グローバルでは50~60%ありましたが、日本は『非常に大きな影響を受ける』がいずれも30%程度を占める一方、『中程度』にも30%程度の回答があり2極化しています。したがって、危機管理対応については業界によって深刻度に差が出ています。



■梅村 秀和(うめむら・ひでかず)
国内証券会社で株式アナリスト業務に従事後、1998年EYに⼊社。2011年以降9年間日本におけるバリュエーション、モデリング&エコノミクス部門リーダーを経て、2020年7⽉1⽇にEY Japan リージョナルストラテジー・アンド・トランザクションリーダーに就任。2020年10⽉EYストラテジー・アンド・コンサルティング発⾜時に同社の代表取締役に就任。

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