[Webインタビュー]

(2017/01/18)

【第77回】 【ソラスト】カーライルと組んだMBOから4年余、東証1部上場を実現させた経営改革のすべて

 石川 泰彦(ソラスト 代表取締役社長)
 富岡 隆臣(カーライル・ジャパン・エルエルシー マネージングディレクター)
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医療事務業界の草分け的存在

 MBOによって2012年2月に東京証券取引所2部上場を廃止した医療事務受託、介護事業を展開するソラストが、16年6月29日、東証第1部上場を果たした。

 同社は1965年10月、「日本医療経営協会」として創業し、医療事務管理者養成のための通信教育事業をスタートさせたのが始まりで、医療事務業界の草分け的存在である。その後、医療事務管理者の養成に関連した医療事務の通信教育事業、教育出版物の印刷・出版並びに販売を目的に68年10月「医療経営新社」を設立。69年には医療機関の医療費請求を含む医療事務処理の請負事業を目的として「医療事務研究センター」を設立した。さらに、72年には医療事務通学教育事業を開始。80年「日本医療事務センター」に社名変更。86年「労働者派遣法」の施行と同時に医療関連業務の人材派遣事業の許可を取得し、92年11月には店頭市場(現ジャスダック市場)に株式を公開した。

 その後も、ホームヘルパー養成講座開設、訪問介護ステーションの開設や保育事業を開始するなど、将来的に成長が見込まれる福祉分野に事業領域を拡大し、02年12月に東証第2部に株式を上場した。また、04年には医療関連受託事業を展開していたアイ・エム・ビイ・センターの株式を取得して子会社化するなど、医療関連受託事業及び教育事業の基盤強化にも取り組んできた。

 同社がMBOに踏み切ったのは11年のこと。外資系投資会社カーライル・グループが100%出資する「エヌ・シー・ホールディングス」がTOB(株式公開買付け)などにより完全子会社化し、日本医療事務センターは12年2月をもって東証2部上場廃止となった。その後、12年10月1日、同社は子会社アイ・エム・ビイ・センターと統合するとともに社名を現在の「ソラスト」に変更している。

 ソラストは、MBO後の15年に医療関連受託事業および介護事業のさらなる成長と事業運営プロセスの改善やサービスクオリティーの向上を狙って、カーライル・グループの持分の一部を譲渡する形を取って、賃貸住宅の大東建託、情報システム開発のインフォコムと資本業務提携、医薬品卸売と調剤薬局を核とする東邦ホールディングスと資本提携(下表参照)するなど、外部との連携にも積極的に取り組んできた。
 


 カーライル・グループは、グローバルに展開するオルタナティブ(代替)投資会社で、16年9月30日現在、125のファンドおよび177のファンド・オブ・ファンズを運営し、その運用額は総額で1690億ドルにのぼる。アフリカ、アジア、オーストラリア、ヨーロッパ、中東、北米、南米において、「コーポレート・プライベート・エクイティ」「リアルアセット」「グローバル・マーケット・ストラテジー」「インベストメント・ソリューション」の4つの分野で投資活動を展開しており、現在世界6大陸の35のオフィスに1625人以上の社員を抱えている。またカーライルは、グローバルに展開するオルタナティブ投資会社の中で唯一、日本に特化した円建てのバイアウト・ファンドを運用しており、2000年に活動を開始して以来、これまでにこのバイアウト・ファンドにより日本国内で23件の投資を実行。さらに、15年9月、日本のバイアウト投資向け第3号ファンドとなる「カーライル・ジャパン・パートナーズⅢ」を1195億円(約10億ドル)規模で募集を完了した。日本ではキトー(ホイストクレーン製造)、クオリカプス(医療用カプセル製造)、ツバキ・ナカシマ(ボールベアリング向け鋼球製造)など、幅広い業界にわたり、独自の技術、強固な顧客基盤、ブランド力などの強みを有する日本企業へ投資し、経営体制強化、グローバル事業展開の推進、M&Aの積極実行などを支援した実績を持っている。

 MBOから4年余で東証1部上場を果たしたソラストだが、カーライルは上場後も発行済株数の14.5%を保有、現在も同社への支援を継続している。

 そこで、ソラストの石川泰彦社長とカーライル・ジャパンの富岡隆臣マネージングディレクターにMBOの経緯から、東証1部上場までの間に進めてきた経営改革の内容について聞いた。

<インタビュー>

カーライルによるソラスト支援の背景

―― カーライルがソラストへの投資を決めたポイントは?

富岡 「医療事務受託というビジネスは、業界トップのニチイ学館とソラストの両社が大部分のシェアを持っている状態です。業界の2番手というのは、アップサイドも望めるという非常にいいポジションにあります。実は、この医療事務受託事業は参入障壁が高いビジネスであるとも言えます。一般の派遣会社も医療機関向けの事務委託をやろうとしているし、実際にやっているところもあるわけですが、専門性であるとか大規模な医療機関向けに人材の確保を行うということについては、それなりのハードルがあって、簡単には参入が難しいのです。つまり、ソラストはビジネスそのものが非常に安定的であり、かつ、いいポジショニングを持っておられる。これは非常に大きな魅力でした。

 加えて、米国では80年代から診療報酬について、1日当たりの包括診療部分の医療費が決められるという、日本のDPC制度(Diagnosis Procedure Combination:医療費の包括請求の制度)のベースとなったDRG制度が導入されていまして、カーライルは米国でヘルスケア・ビジネスへの投資の経験を積んできていました。したがって、日本でもDPC採用病院に対して経営支援を含めたサービスができる会社については大変価値があるということはかねてから考えていたのです。そのDPC採用病院を中心として高い医療事務受託のプレゼンスを築いておられるのがソラストでした。その意味で、ソラストの潜在的な価値は高いと評価していました。

 さらに、介護事業の成長という観点で言いますと、やはり時間と投資がかかります。上場したままで市場に評価されるというのはなかなか厳しいものがある中で、私どもが非公開の状況で投資をし、さらにはM&Aを使った介護事業の規模の拡大を支援するということは大変意味があるだろうと考えたわけです。

 当然、東証1部への上場を目指すためには一定の規模が必要になります。規模があって初めて機関投資家に注目していただける会社になりますので、そういう意味では非上場化後、数年かけて医療事務のさらなるシェアの拡大と介護事業の積極的な拡大という2つの目標の実現をご支援することに、カーライルは魅力を感じたということです」

重点的改革ポイント

―― どういう点に重点を置いて経営改革を支援してこられたのですか。

富岡 「いくつか戦略的なフォーカスがあって、まず1つは、医療事務について、アイ・エム・ビイ・センターの統合も含めた効率性の追求です。それからもう1つは、介護事業の戦略の明確化。病院との親密な関係を構築しているという強味を活かして、どういう風にソラストならではの介護事業を作っていくのかという点については、当時は赤字状態であった介護事業のオペレーション強化と戦略の見直しというところを重点的に改革していきました」

―― 何故赤字だったのですか。

富岡 「一言でいえば、コストのコントロールができていなかったのです。介護事業は需要がありますから、拠点の開設をどんどんやっていくのはいいのですが、黒字化するまでのリードタイムがあります。そのために、既存の黒字の事業である医療事務事業と赤字の介護事業という状態が何年も続いていたわけです。そこで、とりあえず今持っている介護事業の拠点をしっかり収益化する。徹底的に既存事業の利益改善にフォーカスすると同時に、新規展開はM&Aによって利用者と介護スタッフを確保していくという戦略に舵を切りました。2014年にココチケアを買収しましたが、それ以降も、小規模のものも含めて数件のM&Aを行いました。結果としてIPOした直前年度の介護の売り上げは約120億円、約10億円のEBITDAを出せる水準まできました」
 


―― 積極的なM&Aで収益を伴った事業の拡大を図っていったわけですね。

富岡 「介護分野のM&Aはこれまでに5~6社になっていると思います。M&A案件のソーシングから初期検討、DD、エクゼキューション、相手方との交渉を我々と一緒にソラストのスタッフにやってみていただいて、経験を重ねていくことでチームも育ってきています。我々がアドバイスをすることはもちろんありますが、すでに…


 

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