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[M&A戦略と法務]

2019年6月号 296号

(2019/05/20)

非上場会社のLBOにおける株式質とその実務

生頼 雅志(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)
辻岡 将基(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)
 近時、日本でもLBOが活発に行われている。LBOにおいてLBOレンダーが取得する担保には多様なものがあるが、中でも、担保実行時に、買収の対象となる会社の事業を一体として把握し、処分することを可能にする株式に対する担保権は重要な位置を占めている。本稿では、株式に対する担保権として株式質が用いられることが一般的であることも踏まえ、株式質に関する法的な問題とLBOの実務における対応について、簡単に解説することとしたい。

第1. LBOの概要

1. LBOとは

(1) LBOの意義

 一般に、企業買収のうち、買収者が自己資金に加えて、金融機関からの借入れを原資として行うものを、LBO(Leveraged Buyout)と呼んでいる。プライベート・エクイティ・ファンド等のファイナンシャル・バイヤーが実質的な買収主体となる場合に行われることが多い。買主は、自己資金と借入金を組み合わせてレバレッジを効かせることにより、投資効率を向上させることが可能となる。

(2) LBOのストラクチャー

 実務上、最も一般的である株式譲渡の方法によるバイアウトを前提とすると、実質的な買収主体であるプライベート・エクイティ・ファンド等(以下「スポンサー」という)が設立する買収目的会社(以下「SPC」という)が、買収の目的となる会社(以下「対象会社」といい、対象会社の子会社をあわせて「対象会社グループ会社」という)の株式の譲受人となる。スポンサーは、SPCの普通株式を引き受ける方法でエクイティ出資をし、これに加えて、SPCは、銀行等の金融機関(以下「LBOレンダー」又は「質権者」という)から融資を受け、場合によってはメザニン投資家から劣後ローンや優先株の方法によって資金調達をする。

 本稿では、スポンサーがSPCの株式の全てを保有するとともに、SPCが対象会社の株式の全部を取得すること、対象会社の子会社は全て完全子会社であること、LBOレンダーは一行であり、メザニン投資家は存在しないこと、というシンプルなストラクチャーを前提とする。また、上場会社の振替株式に対する質権に関する論点は多数存在するが、今回は非上場会社の買収に関して説明することとする。

2. LBOローンの特徴

 LBOローンは、対象会社のキャッシュフローに依拠したキャッシュフローファイナンスである。しかし、上記のとおり、LBOローンの借主となるSPCは買収後に対象会社の株主となる者であり、対象会社の一般債権者に劣後する地位にある(構造劣後)。これを解消するために、LBOレンダーは、対象会社グループ会社に保証の提供を求め、また、SPCと対象会社の合併を求めることになる。

 また、対象会社グループ会社に他の金融債権者がいる場合にはキャッシュフローの掌握が難しくなり、優先的な債権回収が困難になること等から、LBOレンダーは、ストラクチャー上許容される者以外の金融債権者を排除することを企図して、既存の金融債務を返済させるのが一般的である(金融債権の排除)。また、万一LBOローンがデフォルトしたような場合には、対象会社グループ会社の事業価値を一体として把握したまま処分すべく、対象会社グループ会社の事業用資産すべてに担保権を設定する、いわゆる全資産担保がストラクチャリング上の原則とされる点も特徴的である。もっとも、実務上は、コスト等を勘案し、担保権の設定対象資産が取捨選択されるのが一般的である。

3. 全資産担保のコンセプトと株式への質権設定

 上記のとおり、LBOにおいては、全資産担保の考え方に基づき、LBOローンに係る債権を被担保債権とする担保権が設定されるが、中でも、株式への担保権は、担保を実行することで対象会社(対象会社グループ会社)の支配権を得るとともに、事業価値を一体として換価することができる方法として重要な位置を占める。

 現在の実務では、株式に設定する担保権としては、譲渡担保ではなく質権が選択されるのが一般的である。株式質は、(1)スポンサーが保有するSPC株式、(2)SPCが取得する対象会社株式及び(3)対象会社が保有する子会社株式の全てを目的として設定されるのが通例であるが、対象会社の子会社が海外子会社である場合等には、コストを鑑みて株式質の設定が見送られることも多い。


第2. 株式質の設定に関する実務の流れ

1. LBOローン実行前

 まず、LBOレンダーとSPCがLBOローン契約を締結する日において、(1)スポンサーが保有するSPC株式と、(2)SPCが取得する対象会社株式に関する担保協定書(このような担保協定書を以下総称して「担保協定書」という)を締結する。これらの担保協定書は、その締結により直接に株式質設定の効力を生じさせる内容ではなく、LBOローンが実行され、被担保債務が発生した後に担保差入証を差し入れることで株式質を生じさせるよう、担保差入証の差入れ義務等を定める内容とするのが通常である。

2. LBOローン実行後(実行日中)

 LBOローンが実行され、SPCが対象会社の株式を取得した後は、スポンサー側が対象会社の運営をコントロールすることになる。かかる株式譲渡の実行後に、対象会社の保有する資産に関する担保協定書が締結され、対象会社が保有する資産に担保権が設定される。その一環として、対象会社が保有する子会社株式に質権が設定される。

 また、第3. 2(3)で検討するように、LBOレンダーは株式質の目的物である株券の占有を好むこと、第4.で検討するように、株式質の目的となる株式を質権実行時に円滑に換価処分できるようにしておく必要があることから、SPC・対象会社グループ会社は、いずれも株券発行会社かつ株式に譲渡制限がない会社(譲渡制限がある場合には、担保権実行時に会社の承認が不要である旨の定款の規定(みなし承認規定)がある会社)となることが求められ、LBOローン契約の貸付実行前提条件や表明保証、誓約事項等にかかる定款変更に関する条項が設けられる。


第3.株式質の類型とLBO実務

1. 株式質の類型の多様化

 商法の平成16年改正以降、株券不発行会社の制度が認められ、

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