事業再生において、投資実行から最初の100日間は、例えるなら、緊急治療室に運び込まれた患者に応急処置を行ったに過ぎない。投資実行から100日が経過し、ここから本格的な事業再生のフェーズに入っていく。
だが、ここからは別の難しさがある。
投資の検討、
デューデリジェンス、メインバンクとの協議、バンクミーティング、100日プランの旗振り。ここまでは、言ってしまえば
PEファンドの意思・実行力で推進する事が可能である。PEファンドのメンバーの強い意志と進捗管理や論点整理ができれば実現できる、PEファンドが主役のフェーズである。一方、投資後の100日以後、巡航速度に入ってからは、企業が自らの力で事業再生を進めていかなければならない。主役がPEファンドから企業に移行するのである。
今回は100日プラン後のPEファンドの役割について解説する。
1. モニタリングの重要性
100日プラン後は、中期経営計画にて定めた目標を企業自らが実現していくフェーズになる。ここからはPEファンドは脇役に徹していく。会社の足元の現状、課題(目標と現状のギャップ)、施策の進捗、施策の効果を把握し、側面的な支援を行うのである。ここで重要なのは、打った施策が適時適切に実行され、効果がでているかどうかを定量的に測定し、想定通りに進んでいない場合にはすぐに軌道修正ができる体制を整える事である。こうする事で小さな問題解決をより早く、より確実に回すことができる。
1)
KPI(Key Performance Indicator, 重要経営指標)の設定
まず、ポイントになるのは「KPI」の設定だ。企業活動全体の状況を定量的に測れるKPIを設定し、そのKPIの適正性を判断する「基準値」を設定する。KPIの内容とその基準値は業界毎、個社毎で異なるが、自社の売上やコストを構成する要素を細分化していき、キーとなる要素をKPIとし、過去のKPIの動きや競合含めた業界平均等を参考に基準値を設定する。
2)体制づくり
KPIの設定を行ったら、この効果を測るための体制・仕組みを整えていく。
- 施策ごとに責任者を明確にする
これは当たり前の事だが、各施策のオーナー・責任者は誰なのか、必ずby nameで明確にしなければならない。例えば、筆者が関与した施策では、月2回の進捗会議の際、資料の表紙に、「原価計算精緻化プロジェクト:推進責任者:●●、事務局:●●」と記載し、実行責任者を明確にしていた。
- 会議運営を形骸化させない
会議には意思決定、アイディア出し、伝達・報告等いくつかの機能があるが、その会議の目的は何なのか、参加者全員が共有しなければ有意義な会議にならない。会社によっては会議の運営に慣れていないこともあるため、最初はPEファンドのメンバーがファシリテーション(アジェンダの設定や議事録なども)を担当する事もある。
- 情報共有しやすい職場環境を整える
経営不振に陥る企業には往々にして良い情報だけが共有され、悪い情報は報告されない風土がある。悪い情報こそ次のアクション・改善に結びつく一番の近道にもなりうるため、オープンな職場環境づくりは必須である。
■筆者履歴長瀬 裕介(ながせ・ゆうすけ)あずさ監査法人に7年間勤務。製造業、商社、情報通信業の企業を中心とする監査、IPO支援業務等に従事。成長過程にある企業の経理全般、管理会計の整備等を経験。 2013年にニューホライズンキャピタルに入社し、投資実行、投資後のハンズオン支援からEXITに至る一連の業務を担当。特に再生案件における金融調整、リストラクチャリングから投資実行後の経営企画・管理部門の強化を担当。丸茂工業案件では取締役として投資直後の原価計算制度の構築からEXITまで一貫して関与し、CFOを補佐・監督した。その他、万葉軒の監査役、たち吉の取締役を歴任。横浜国立大学経済学部卒。