1 はじめに
新型コロナウィルスの感染拡大が始まってから約2年が経過する。この間、コロナの影響により損益や資金繰りが悪化した企業を支援するため、持続化給付金や雇用調整助成金等の補助金、また、金融機関からの特別融資が積極的に実施されたことから、企業の倒産件数は増えてはいない。もっとも、過剰債務の問題が解消されたわけではなく、今後もしばらくはコロナと共存せざるを得ない状況が続くと予想されるため、
私的整理又は
法的倒産案件は増加すると思われる。
昨今の私的整理や法的倒産案件では、事業譲渡や
会社分割等の手法を用いて、スポンサーからの支援を受けつつ、会社・事業を再建するケースが一般的である。そして、スポンサーから有利な条件で支援を受けるためには、経営者が早期に適切な手続をとるべく意思決定をすることが必要不可欠である。
もっとも、中小企業の経営者は、会社の金融債務について連帯保証をしているケースが多い。そうすると、主たる債務者である会社が倒産をすれば、連帯保証をした経営者は多額の保証債務を返済しなければならなくなるから、経営者は自ずと早期の決断を躊躇し、そのまま経営を続け、事態が悪化することにもなる。
そこで、経営者の個人保証が阻害要因となる案件では、その解消のため、
経営者保証に関するガイドライン(以下「GL」という)の活用を検討するべきである。会社が窮境に陥った場合でも、経営者が早期の決断をするようになれば、より有利な条件でスポンサーからの支援を受けられる可能性が高まるなど、会社・事業の再建の可能性は高くなり、他方で、金融機関等の債権者は破産手続の場合よりも高い回収率を期待できることになる。
このように、GLの活用は、窮境にある会社・経営者にとってメリットがあるだけではなく、債権者にとってもメリットがある。窮境にある中小企業が再建を図ろうとする場合には、GLを活用することが可能かについても専門家に相談し、検討をすることが重要である。
2 経営者保証ガイドラインを活用することのメリット
(1)破産手続の回避
一つ目のメリットとして、GLを利用することにより、経営者の個人破産を回避することができる。そして、個人破産の場合に残すことのできる自由財産(99万円)に加えて、回収見込額の増加額の範囲であれば、一定の財産を残すことが可能である(注1)。この財産は「インセンティブ資産」と呼ばれる。経営者は、これらの資産を手元に残しつつ、それ以外の資産を弁済に充てることによって、保証債務の残額については免除を受けることができる。
インセンティブ資産として残すことができる資産は、回収見込額の増加額の範囲である必要がある。これは、経営者が早期決断をし、会社が破産手続に至らなかったことによる対象債権者の回収見込額の増加額の範囲(注2)であれば、経営者に一定のインセンティブ資産を残しても、債権者にとって経済合理性が認められることによる。
事案ごとに債権者との交渉が必要となるため、