<ポイント>
〇日本製鉄によるUSスチールの買収が象徴的案件に。モメンタムは非常に強く、良好な市場環境が2024年も続く
〇事業会社も設備投資よりもM&Aに目を向けるケースが増えている
〇「冷静と情熱の間」で投資テーマを吟味して決断することが最重要
〇ディールが熱を帯びやすい状況。買収価格高騰のケースには注意が必要
2023年は4Qに大型案件目立つ ―― M&A市場の展望について伺いたいです。まず、現状をどう見ていますか。
「昨年初め、2023年のM&A市場が年の半ばごろに活発化すると予測していましたが、実際にはグローバルM&A市場はそれほど良い状態ではありませんでした。世界の主要国の多くは、前年比でマイナス成長、日本もマイナスではないものの、東芝やJSRなどプライベートエクイティを中心とした大型ディールを除き、年の途中まではさほど活気がない状況でした。
それが昨年の後半、特に10月から12月に大きく動く形になりました。象徴的な例としては、日本製鉄によるUSスチールの買収案件が挙げられます。事業会社の統合ディールで2兆円の買収は珍しく、近年の事業会社による案件では最大規模です。製造業系では日立製作所のグローバルロジックやパナソニックのブルーヨンダーの買収などがありますが、これらの案件は1兆円程度の規模で2兆円規模のものはありません。
結果として、2023年の日本のM&Aマーケットは前年比プラスで終了しました。途中まで前年比でフラットな状況でしたが、後半、特に第4四半期の大型ディールに牽引され、プラスでの着地となりました。モメンタムは非常に強いことから、この傾向は2024年にも続くと考えています」
―― どのような要因が働いてきそうですか。
「フィナンシャルバイヤーとストラテジックバイヤーを区別して考える必要があります。フィナンシャルバイヤー、特にプライベートエクイティにおいては、日本ファンドやアジアファンドの中で日本向けの
ドライパウダーが豊富にあり、投資意欲が高い状態です。
■大原 崇(おおはら・たかし)
東京大学法学部卒業。パソナ、外資系コンサルティングファームを経てベインに入社。15年以上にわたり、電機・電子機器メーカー、自動車、産業財、消費財、サービス等の幅広い業界の国内外のクライアントに対するコンサルティングに従事。全社ポートフォリオ戦略、成長戦略、コスト構造改革、デジタルマーケティング 、ディール実行や買収後の統合支援まで含めた国内外のM&A支援等、多岐にわたるテーマのプロジェクトを手がける。ベイン東京オフィスにおけるM&Aプラクティスリーダー。