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ポイント>
〇M&A市場全体は2024年に向けて回復。従前より多くの企業が具体的なアクションを検討している印象
〇
アクティビストの影響が強まる。日本企業は事業ポートフォリオの再編や業界の再編成にまだ大きな余地残す
〇
MBOや
非上場化、
TOB対抗提案も増加の可能性
構造的な変化の節目に ―― 振り返って、2023年のM&A市場をどう総括していますか。
「構造的な変化の節目にあるという印象を強く持っています。
この変化は元々、
コーポレート・ガバナンスコードや
スチュワードシップ・コードといった政府のイニシアチブもきっかけとなり引き起こされ、そのような波にうまく乗る形でアクティビストが活動を活発化させてきました。見方によっては、政府のイニシアチブが、アクティビストの主張に正当性をもたらしたところもあり、また、メディアもそういったアクティビストの動きに対する受け止め方を変えています。
アクティビストに対する見方が、より冷静な受け止め方になりつつあります。これによって日本の企業経営者もアクティビストをはじめとする機関投資家の動きに対する感度を上げたことが、企業経営におけるある種のプロアクティブな動きをもたらす大きなドライバーになっています。
日本企業をみていると、事業ポートフォリオの再編や業界の再編成にまだ大きな余地があり、アクティビストもこれに着目していると考えています。2023年のアクティビストによるキャンペーンの件数に基づくと、日本は世界第2位のアクティビスト活動国と言える状況になっています。
さらに、
PEファンドも引き続き日本市場に注力し、人材を強化するなどしています。2023年8月には経済産業省が「
企業買収における行動指針」も策定しました。これらの様々な要因が出揃って、日本のM&A市場は大きく変わりつつあると言えます」
―― アクティビスト動向の活発化は、日本企業全体、大企業にも関係する話でしょうか。
「まず、アクティビストによる投資ですが、大きな持分を保有せずとも『面』で抑えるようなところもあります。すなわち、企業の株式の比較的小さな持分割合から入り、最初はさまざまな企業に広く分散して投資を進める傾向があるアクティビストも見られます。
そうしたなか、企業がガバナンスに脆弱性があると考えられる場合や、事業ポートフォリオに関して合理的でない部分がある場合、資本効率が悪い場合、あるいは株主還元を合理的な範囲でやっているかどうかを含めて、アクティビストはこれらの問題に対して提案を行うことが様々な事例で明らかになっています。従って、企業経営に携われる方は、上場企業である限り、アクティビストの潜在的なターゲットにはなり得ますから、特にある種の先鋭的な動きに繋がり得るアクティビストの見方は気にされているのではないでしょうか。
後は、やはり外堀が埋まってきていると思います。東京証券取引所の資本効率に対する要請や経済産業省の指針に対して、資本市場のプレイヤーはこれらのガイドラインを入念に研究しており、それに沿った動きを見せていると感じます。従って、企業経営者の意識も変わらざるを得ないと考えています」
カーブアウトへの認識は「まだら模様」 ―― 東証の要請や企業買収における行動指針は浸透していくでしょうか。
…
■竜口 敦(たつぐち・あつし)
1998年3月慶應義塾大学環境情報学部卒業。2006年1月モルガン・スタンレー入社。以来、投資銀行本部においてM&Aアドバイザリー業務及び資金調達業務に従事。2022年3月よりM&Aアドバイザリー部の責任者として日本における国内外のM&Aアドバイザリー・サービスを統括。投資銀行本部のマネージング ディレクター。