嶋津 創 ベインキャピタル・プライベート・エクイティ・ジャパン マネージングディレクター
「物流の2024年問題」を背景に MBO による株式の
非公開化 を目指した物流大手のトランコムが、ベインキャピタルと組んで行った
TOB が10月31日に成立し、2025年1月15日に上場廃止となる。
トランコムは、創業者である武部純三氏が1955年3月に株式を譲り受けた愛知小型運輸が前身。1959年6月に自動車運送取扱事業を目的とするナゴヤトランスポートセンターとして設立され、1989年6月にトランコムに商号を変更した。その後、1995年に日本証券業協会に株式を店頭登録、2002年に東京証券取引所市場第2部及び名古屋証券取引所市場第2部に上場し、2012年に東京証券取引所市場第1部及び名古屋証券取引所市場第1部に指定を受け、2022年4月東京証券取引所及び名古屋証券取引所の市場区分の見直しにより東京証券取引所プライム市場及び名古屋証券取引所プレミア市場に移行した。
創業家の資産管理会社AICOHが持つ28.69%の株式と武部篤紀会長の1.91%持ち株はTOB後再出資という形を取り、30.7%の持株比率は維持する。
トランコムは、ロジスティクスマネジメント事業*のほか、全国50カ所の情報センターによる約1万3000社のパートナー企業の輸送マッチングサービスを行う物流情報サービス事業であるトランコムならではの求貨求車サービスで業績を伸ばしてきた。2024年3月期決算は、売上高1694億1000万円(前年同期比1.0%増)、営業利益70億2000万円(5.6%減)、経常利益71億5200万円(5.5%減)、親会社に帰属する当期利益45億4600万円(18.6%増)。2025年3月期は売上高5.0%増の1778億円、純利益0.1%増の45億円を見込んでいる。
*顧客のサプライチェーンにおける全体最適物流を提案し、物流センターの構築・運営など顧客の物流機能の一括受託業務 経営環境としては、新型コロナウイルス感染症の5類への移行やインバウンド需要の回復によって経済活動の回復への期待はあるものの、原材料や燃料価格の高騰、円安等を背景とした物価上昇など、先行きは依然として不透明な状況が継続している。また、2024年4月から施行されたトラックドライバーの時間外労働の上限規制、いわゆる「物流の2024年問題」やトラックドライバーの高齢化など、人材不足や人件費の増加により、輸送能力不足や輸送コストの上昇などが予想される。さらに荷主自身がサプライチェーンを見直す動きも出てきており、物流全体は大きく変化していくことが想定されるなど、事業環境が大きく変化する時代に、どのような成長戦略を描くのかという経営課題への対処に迫られていた。
MBOのパートナーとなったベインキャピタルは、全世界で約1850億ドルの運用資産を持つ国際的投資会社。2006年に東京拠点を開設して以来、日本では、スノーピーク、アウトソーシング、T&K TOKA、システム情報(現SI&C)、IDAJ、エビデント(旧オリンパスの科学事業を承継)、インパクトホールディングス、マッシュホールディングス、日立金属(現プロテリアル)、トライステージ(現ストリートホールディングス)、Linc’well、日本セーフティー、イグニス、キリン堂ホールディングス、ヘイ(現STORES)、昭和飛行機工業、チーターデジタル(現エンバーポイント)、Works Human Intelligence、東芝メモリ(現キオクシア)等、37社に投資実績を持つ。
トランコムMBOのパートナーとなった経緯と今後の成長戦略について、ベインキャピタル・ジャパンの担当者・嶋津創マネージングディレクターに聞いた。
<インタビュー> トランコムのならではの『求貨求車』のマッチングサービスの強化とM&A戦略で成長を支援する 嶋津 創(ベインキャピタル・プライベート・エクイティ・ジャパンLLC マネージングディレクター)
<目次> 3PL事業と、「求貨求車」サービスで急成長 MBO後の株主構成 「2024年問題」と業界動向 成長戦略に向けた支援策 今後の海外M&A戦略 再上場が有力な選択肢