[Webインタビュー]

(2023/08/18)

【第161回】【グロービス・キャピタル・パートナーズ】7号ファンド(727億円)が目指す投資戦略

―― 日本でも時価総額10億ドル超の未上場企業「ユニコーン」は出てくるようになった、次のチャレンジは100億ドル超の「デカコーン」

高宮 慎一(代表パートナー)
  • A,B,EXコース
高宮 慎一(代表パートナー)
<目次>
  • 累計投資先社数は200社超、メルカリなど有力企業を輩出
  • ユニコーンからデカコーンへの挑戦
  • 付加価値を最大化するために注力している3つのポイント
  • カーブアウト、MBO案件も対象に
  • LPの顔ぶれ
  • 過去のファンドの投資先への追加投資も
  • 「GCP X」部隊の役割
  • サンフランシスコに新拠点を開設
  • 日本のVCの課題

累計投資先社数は200社超、メルカリなど有力企業を輩出

―― 7号ファンド(Globis Fund VII, L.P. グロービス7号ファンド投資事業有限責任組合)が2023年4月に727億円で募集を締め切りました。過去最大の規模になりました。

「グロービス・グループはもともと、ヒト(経営大学院の創設と企業内リーダーの育成)、チエ(経営ノウハウの出版・発信、G1サミットのカンファレンス)、カネ(スタートアップへの投資)という3つのビジネス基盤を構築することによって社会に創造と変革を導くというビジョンのもとに、1992年、堀義人(グロービス経営大学院学長、グロービス・キャピタル・パートナーズ<以下GCP>代表パートナー)によって立ち上げられました。

 3つのビジネスは、具体的には1992年に『ヒト』、つまり今のグロービス経営大学院の母体となる教育事業から始まりました。そして1994年には『チエ』にあたる出版の事業を開始し、1996年に『カネ』の機能、つまりスタートアップ投資をGCPとしてスタートさせています。

 スタートアップ投資に関しては、1996年設立の1号ファンド(5億4000万円)からスタートし、1999年設立の2号ファンド(200億円)、2006年設立の3号ファンド(180億円)、2013年設立の4号ファンド(115億円)、2016年設立の5号ファンド(200億円)、2019年設立の6号ファンド(400億円)、そして今回の7号ファンドを合算した運用総額は累計1800億円を超えています。また、累計投資先社数は約200社となり、転職サイト『ビズリーチ』などを運営しているビジョナル、医療ヘルスケア関連のインターネットサービスを提供しているメドレー、日本最大のフリマサービスを展開しているメルカリなど、多数の有力上場企業を輩出しています」

ユニコーンからデカコーンへの挑戦

―― 7号ファンドの特長として、どのような点が挙げられますか。

「GCPは、1996年の創業時から世界で戦って勝てるような会社をつくりたいという理念で投資を行ってきました。

 創業当時は、ともすると起業することがメインストリームからのドロップアウトと見られ、失敗すると後がないというような社会の空気感がありました。その後、4号ファンドの時代、安倍晋三首相(当時)の“アベノミクス”が打ち出されました。2008年の日本のスタートアップ投資額は約300億円というレベルでしたが、アベノミクスでスタートアップ育成や民間投資を喚起する成長戦略が提唱されたことで、スタートアップエコシステム拡大の最初の“ひと転がし”の背中を押された感じがありました。

 ちょうどガラケーからスマホに変わるタイミングに重なり、デバイスシフトという大きな投資テーマも出てきました。そして、4号ファンドからはメルカリ、スマートニュースといったユニコーン*となるスマホアプリのスタートアップへの投資が行われました。そういう意味で、アベノミクスによって政府が後押しをするなかでテクノロジーの転換、デバイスシフトが大きなインパクトになり、それをきっかけに日本のスタートアップのエコシステムについて一気にエンジンかかったという感じになりました。そこからは毎年2倍近くのスピードでベンチャー投資額、市場が拡大していって、2008年に300億円だったベンチャー投資額は2022年には約8000億円にまで拡大しています。

 最近は、2022年に岸田政権が“スタートアップ育成5か年計画”でさらなるスタートアップ促進政策を打ち出し、今後5年でスタートアップへの投資額を10兆円規模に拡大することを目指すとし、スタートアップは国の成長戦略を担う存在となり、社会的な期待、認知度も上がりました。起業家が1回失敗してもリターンマッチがいくらでもできる時代になって、スタートアップを取り巻く環境は本当にがらっと変わったと思っています。それに合わせて我々もメガスタートアップを創ることにしっかり貢献していきたいということでファンドの運用額を拡大してきたという流れがあります。日本のエコシステムはユニコーンが定常的に出てくる素地が整いました。次のチャレンジはデカコーンの創出だと思っています。

 エコシステムの発展に合わせ、VCが投資先に提供できる価値の変遷もありました。00年代前半くらいまで、リスクキャピタルの供給という一番ベーシックなVCとしての価値がありました。90年代までさかのぼると、株式投資にも、創業者の個人保証が必要で、会社が倒産してしまうと個人でそれを返済しなければならないということもありました。よって、個人と会社のリスクの分離、つまりリスクマネーを供給するというもっとも基本的な機能にもVCの価値がありました。

 これを“ステップ0”とすると、その次に、ただ資金を出すのではなくて、経営者が事業、組織を考える時に、社外役員として入って“壁打ち相手”となるような支援をする。これが“ステップ1”で、我々は経営支援、バリューアップをしっかりやることを創業当初から標榜してきました。

 その次に、我々は“ステップ2”として、海外でバリューアップチームやプラットフォームチームと呼ばれる支援専門の部隊を作りました。ステップ1は経営のレイヤーで支援する、いわば経営コンサルのような機能、相談役に近い機能でしたが、バリューアップチームというのはキーパーソン、例えばCxO(Chief x Officer)や執行役員、部長クラスを中心に採用を支援したり、事業と組織を連動させて組織戦略を考えて、事業からひも付いた形で組織要件、人材要件の課題解決を支援するということを行っています。

 さらに今後は、“ステップ3”として、大規模なグロースキャピタルの供給が必要だと考えています。メルカリが最初のユニコーンとして登場したのが2018年で、その後も年間平均10社ぐらいはユニコーンといわれるバリュエーションに到達するところに来ていると考えています。そうなってくると、ファイナンスのニーズとしても、いわゆるグロースキャピタル、つまりレイトステージのスタートアップに対する100億円、200億円という桁での投資を行うということになります。そうなると資金が不足してきます。

 一昨年のテックバブルがはじける前までは、海外のグロース投資を行うファンドが日本にも入りはじめていました。しかし、こうした資金供給者の多くは、上場株など本業があってのスタートアップのレイトステージとグロース投資をしている人たちでした。したがって、皆が皆というわけではありませんが、テックバブルが崩壊すると本業回帰してしまう人も増え、急に資金供給が減ってしまいました。今、このレイトステージのグロース段階に来ているスタートアップへの資金供給に過少になっている状況なので、そこのニーズを満たしてあげてグロースフェーズを越えて時価総額1000億円どころか5000億円、1兆円に届くようなスタートアップを創るのが社会の要請だと思っています。それで、我々も727億円の7号ファンドを組成しました。

 727億円のファンドをレイズすること自体大変ですし、レイズしたものをしっかり投資を実行して、3倍以上のリターンを実現しようとすると2500億円規模のリターンを出さなければなりません。日本ではスタートアップのエコシステムは確立されつつありますが、我々もいわゆる“アントレプレナー・ビハインド・ザ・アントレプレナー”、起業家の背後にいる起業家という意識を持ってデカコーン規模のスタートアップ育成にチャレンジしたいと考えています」

*企業価値が10億ドル以上の未上場企業)「ユニコーン」、同100億ドル以上は「デカコーン」と呼ばれる。日本政府の「スタートアップ育成5か年計画」では、ユニコーン100社の創出を目標に掲げている。また、日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)は、2027年までに上場・非上場のスタートアップの株式評価額を100兆円に引き上げるとしており、資金供給の促進や大企業との連携などで、現在の20兆〜30兆円台から約3〜4倍に高めることを目標に掲げている。

付加価値を最大化するために注力している3つのポイント


■高宮 慎一(たかみや・しんいち)
GCP参画前は、戦略コンサルティングファーム アーサー・D・リトルにて、プロジェクトを主導。グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)ではデジタルおよびヘルスケア領域の投資を担当。2008年9月グロービス・キャピタル・パートナーズ入社。2012年7月同社パートナー就任。2013年1月同社パートナーおよび最高戦略責任者(CSO)就任。2019年1月代表パートナー就任。投資先に対して社外役員として参画し、ハンズオンでの戦略策定、経営の仕組化、組織造り、国内外の事業開発を支援。Forbes Japan’s Midas List 日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング 2018年1位、2015年7位、2020年10位。
東京大学経済学部卒(卒論特選論文受賞)、ハーバード大学経営大学院MBA(二年次優秀賞)。
実績/支援先:
実績には、IPOにアイスタイル、オークファン、カヤック、ピクスタ、メルカリ、ランサーズ、M&Aにしまうまプリントシステム(CCCグループ入り)、ナナピ(KDDIグループ入り)、クービック(heyグループ入り)などがある。現在支援先には、タイマーズ、ミラティブ、ファストドクター、グラシア、アル、MyDearest、want.jp、アルプ、ミニッツなどがある。

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