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[M&A戦略と法務]

2018年10月号 288号

(2018/09/18)

M&Aの価格調整条項とアドホック仲裁

尾城 雅尚(TMI総合法律事務所 弁護士)
1 はじめに

 事業譲渡や吸収分割、株式譲渡等、現金を対価とするM&Aのスキームにおいて、「価格調整条項」が定められる場合がある。価格調整条項は、特に大型のM&Aを中心に、M&Aの対価の根拠となる企業価値評価において、評価基準時(≒DD基準時)時点の評価とクロージング時の評価との差を調整するものとしてしばしば用いられる仕組みである(注1)。

 価格調整条項を導入する場合、確定額での譲渡対価設定と異なり、契約上定められた一定のルールに従って調整額を算出するプロセスが必要となるため、事後的な法務紛争リスクを極力回避するという観点で、できるだけ双方に納得感があり、また、実務上スムーズに調整額が客観的一義的に確定する内容が求められる。

 また、価格調整条項としばしばセットで規定されるのがいわゆる「アドホック仲裁」の条項である。価格調整条項においては、算定の基礎となる財務データとしてBS試算表を用いるが、契約上BSの作成基準について詳細に記載するのも現実的ではないため、「DD時に提示した財務資料と同様の基準で作成されたクロージング時BSを用いて算定する」などと、抽象的に記載せざるを得ない。

 従って、クロージングBSに示された数字の合理性について最終的に当事者の合意を得られなかった場合に備えて、客観的な価格調整額を確定させるための任意の仲裁的な手続きを定めておくことが「アドホック仲裁」の条項である。

 実務的には、価格調整の協議においてアドホック仲裁まで用いて調整額決定を行う場面は多くは見受けられない。しかしながら、双方の主張する調整額が億円単位で相違した場合には、対外的な説明責任の観点でも透明性ある手続きで意見相違を解消することが求められ、アドホック仲裁が開催されるべき事案が存在することは否定できない。筆者は幸運にもM&A当事者の意向で価格調整条項におけるアドホック仲裁をアレンジし、サポートを行った経験を持ち、その際に多くの実務的知見を得た。

 そこで本稿では、アドホック仲裁の実務及び関連する価格調整条項の記載内容についての考察をここに紹介することとする。


2 価格調整条項概観

(ア) 基本的な構成

 価格調整条項を定める際に考慮すべき基本的な項目は以下のとおりである。

(1)誰がいつまでに基準となるクロージングBSを準備するか
(2)価格調整の対象項目は何にするか。
(3)見解の相違をどのように協議するか。
(4)除外事由について

(イ) 基準時BSの準備と作成基準

 価格調整はBSを基準に実施されるが、その作成基準については、apple to appleの比較を可能とするために「DDのプロセスにおいて買手に提供されたBSと同一の作成基準」が採用される。なお、当初から子会社であった会社の譲渡であれば単体決算の財務諸表が存在しているので準備にそれほど困難が伴うものではないが、事業部門の譲渡(会社分割+株式譲渡の場合を含む)の場合には、この部門BSの作成基準がどうであったか、という点が重要な意味を持つ(注2)。

 また、クロージングBSの作成者は売手側となることが実務上は多い。作成において対象会社・対象部門の協力が必要な場合ももちろんあるが、旧管理主体としてDDの資料提供時のBS作成基準をより詳細に把握しているのは売手側であるため、事実上売手が対象会社・対象部門と連携してクロージングBSを作成する方がスムーズと言える。もちろん、クロージング後は形式的に対象会社・対象部門を支配しているのは買主であるため、買主側が作成して売り主に提示するという方法が否定されるわけではない。

(ウ) 価格調整の対象項目

 大きな選択肢として、純資産(=BS上のすべての項目)を基準に調整額を算定する場合と、

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