1. はじめに
研究開発税制は、我が国の政策税制の中でも筆頭に挙げられる税制措置であり、創設も約60年前に遡る。近年では賃上げ促進税制(当初は所得拡大促進税制として創設)や地方創生関連の投資減税も大きく取り上げられるようになっているが、創設はせいぜい10年位前である。研究開発税制は、資源を持たない我が国が国際企業との競争に対処するためには、産業体制の整備を図るとともに技術開発力を飛躍的に強化することが必要、との認識の下で創設された制度であり、租税特別措置(時限立法)として設けられていることから、2-3年ごとに制度の見直しが行われている。
令和8年度は研究開発税制の見直しが行われる改正年度にあたり、国際環境の変化や主要国の動向も踏まえた制度の見直しが、経済産業省の「研究開発税制等の在り方に関する研究会」(以下、「研究会」)において検討されている(注1)。研究会は、各国が戦略的な科学技術領域への重点投資や研究開発拠点の誘致競争を激化させている中で、我が国のイノベーション力は相対的に低下しており、研究開発税制等がイノベーション投資のインセンティブとしての役割をより果たすことができるのかを検討することを目的として設置されたものである(注2)。
研究開発の支援は、大学研究機関や企業、自治体等への公募による助成金により行われることも多いが、税制支援措置は申請や承認等の手続きを経ることなく、税務申告により税額控除の適用が受けられる制度であり、政策税制の適用において最も典型的なものと考えられる。
本稿では、企業投資の観点から見た研究開発の位置づけと、今後の研究開発税制の動向について解説する。
■筆者プロフィール■

荒井 優美子(あらい・ゆみこ)公認会計士/税理士
コンサルティング会社、監査法人勤務後、米国留学を経てクーパース&ライブランド(現PwC税理士法人)に入所し現在に至る。クロスボーダーの投資案件、組織再編等の分野で税務コンサルティングに従事。2011年よりノレッジセンター業務を行う。日本公認会計士協会 租税調査会(出版部会)、法人税部会委員。一橋大学法学部卒業、コロンビア大学国際公共政策大学院卒業(MIA)、ニューヨーク大学ロースクール卒業(LLM)。