[視点]

2025年8月号 370号

(2025/07/09)

非上場会社の買収における日英の実務比較

伊藤 慎悟(Bird & Bird LLP ロンドンオフィス ソリシター(イングランド&ウェールズ))
関口 尊成(日比谷中田法律事務所 弁護士(日本、ニューヨーク州)、博士(法学))
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 本稿は、ミッドサイズ以下の非上場会社の買収における日英の実務の差異について解説することを目的とする。なお、買収のストラクチャーには、事業譲渡型(アセットディール)と株式譲渡型(シェアディール型)があるが、議論を複雑化しないため、本稿では、後者の株式譲渡型の取引を念頭に置くこととする。

1.法務DD

 日英の実務において、法務デューディリジェンス(以下「法務DD」という)の対象や方法は大きく異ならないが、差異もある。たとえば、日本では、法務DDの結果、しばしば未払残業代リスクが指摘されるが、英国では、未払残業代の問題が取り上げられることはほとんどない。これには、日本と英国の制度上及び慣習の差が影響していると考えられる。日本においては、残業に対する法定の割増賃金の支払義務があるが、英国ではこのような規制はなく、残業時間を含めて計算した1時間あたりの給与額が最低賃金を上回る限り、残業代の支払義務の有無は、雇用者と従業員間の契約条件による。したがって、比較的シニアなポジションの従業員については、労働時間にかかわらず、雇用者に残業代の支払義務がないことも多く、また、残業代の規定がある従業員に、残業代を支払わずに働いてもらおうとしても従業員側は通常受け入れないため、日本の状況とは前提が異なる。


■筆者プロフィール■

伊藤 慎悟(いとう・しんご)

伊藤 慎悟(いとう・しんご)
Bird & Bird LLP ロンドンオフィス
ソリシター(イングランド&ウェールズ)
ロンドンにおいて、不動産や金融を含む日系企業のクライアントに対して英国法のアドバイスを提供。
2008年から2016年まで東京で日本法の弁護士として業務に従事後、ロンドンに拠点を移し、欧州におけるM&A、ジョイント・ベンチャー、組織再編に関する業務を主に担当。

関口 尊成(せきぐち・たかなり)

関口 尊成(せきぐち・たかなり)
日比谷中田法律事務所
弁護士(日本、ニューヨーク州)、博士(法学)
主な取扱分野は、M&A (日本企業による海外企業の買収、国内会社の買収)、CVC (事業会社によるベンチャー出資)、表明保証保険、企業結合規制、M&A紛争。
最近の著書として、『論点解説 クロスボーダーM&Aの法実務』(2023年)、『M&A保険入門〔改訂版〕 -表明保証保険の基礎知識-』(2024年)、『Q&A CVCによるスタートアップ投資』(2024年)。

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