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[M&A戦略と会計・税務・財務]

2021年10月号 324号

(2021/09/15)

第169回 産業競争力強化法の施行と戦略的投資

荒井 優美子(PwC税理士法人 タックス・ディレクター)
1. 産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律の施行

 2021年7月30日に「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律の施行期日を定める政令」及び関連法令が公布され、「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」の一部が8月2日に施行された。令和3年度税制改正(以下、「令和3年度改正」)で措置された、①改正産業競争力強化法(以下、「産競法」)の事業適応計画認定制度に基づく投資促進税制や繰越欠損金の控除上限の特例、②中小企業等経営強化法の経営力向上計画認定制度に基づく経営資源集約化税制についての、計画申請の受付も8月2日より開始された(図表1参照)。以下では、事業適応計画認定制度に基づく税制措置について解説を行う。

【図表1 8月2日に施行された制度の概要】
支援制度等制度内容
産業競争力強化法
 事業適応計画①カーボンニュートラル、②DX(デジタルトランスフォーメーション)、③「新たな日常」に向けた事業再構築に関する計画認定を受けた場合に、税制支援(投資促進税制、繰越欠損金の控除上限の特例)や金融支援(利子補給、低利融資)を行う
外部経営資源活用促進投資事業計画投資事業有限責任組合がグローバルオープンイノベーションに資する海外投資について計画認定を受けた場合に、海外投資50%規制の適用除外等を行う
革新的技術研究成果活用事業活動計画ディープテック(大規模研究開発型)ベンチャー企業の量産体制整備等に関する計画認定を受けた場合に、これに必要な資金の民間金融機関からの融資に対し、独立行政法人中小企業基盤整備機構の債務保証を行う
ベンチャー企業の再挑戦支援資金調達の円滑化や有望資産の再活用によるスタートアップ企業の再挑戦支援を行い、コロナ禍の影響等によって事業継続が困難になったスタートアップ企業等を支援
債権譲渡における第三者対抗要件の特例債権の譲渡の通知等が、新事業活動計画の認定を受けた事業者によって提供される情報システムを利用してされた場合には、当該情報システム経由での通知等を、確定日付のある証書による通知等とみなす
国立研究開発法人産業技術総合研究所による研究開発施設等の提供企業等の新製品・新サービスの開発などの新しい事業活動に対して国立研究開発法人産業技術総合研究所の研究開発施設等を提供
事業再編計画に関する支援措置の拡充(会社法の特例措置の拡充、金融支援の対象の拡充)事業再編計画の認定を受けた場合に活用できる会社法の特例措置の拡充(株式対価M&A時の株式買取請求権の適用除外、スピンオフの際の業務執行者の欠損填補責任の軽減)や金融支援の対象拡充(大規模な買収資金、構造改善費用等)
私的整理から法的整理への移行等の円滑化事業再生ADR(私的整理)において、法的整理に移行した場合も私的整理時の事業再生計画案が適用される予見可能性を高めることにより、結果的に法的整理に移行することなく、事業再生ADRでの迅速な事業再生を実現する制度等を措置
中小企業再生支援協議会による事業再生支援の機能強化中小企業再生支援協議会による中小企業の事業再生支援について、法的整理に移行した場合に、つなぎ融資債権の優先弁済が認められる蓋然性の向上を図る規定や、商取引債権が保護される予見可能性を高める規定を創設
創業関連保証の保証限度額・対象者の拡充創業者に対する信用保証制度について、中小企業等経営強化法において措置されているものを産業競争力強化法に統合し利便性を高めるとともに、利用対象の拡充(個人事業主が創業後5年未満の間に会社を設立し事業譲渡した場合も利用対象とする)
中小企業等経営強化法
中堅企業への成長促進規模拡大に資する支援策(経営革新計画、経営力向上計画に紐付く支援)について、資本金によらない新たな支援対象類型を創設し、中小企業から中堅企業への成長途上(規模拡大パス)にある企業群まで対象を拡大
経営資源集約化の促進譲り受けようとする企業の財務状況等の調査(デューデリジェンス)に関する事項を記載した経営力向上計画の認定を受けた中小企業が、認定に従ってM&Aを実施した場合、中小企業の経営資源の集約化に資する税制(準備金の積立等)を措置
事業継続力の強化連携事業継続力強化計画に位置づけられた中堅企業を対象とした特例を措置します。また、中小企業に対するハザードマップの周知を促進
承継円滑化法
経営承継円滑化事業承継(M&Aを含む)を要するものの株主の所在不明によりそれが困難である旨の認定を受けた中小企業者について、所在不明株主からの株式買取り等の手続きに必要な期間を5年から1年に短縮する会社法の特例を措置

(出所:経済産業省ホームぺージを基に作成)


2. 改正産業競争力強化法に基づく事業適応計画認定制度

 事業適応計画認定制度は、事業者全体での組織的な戦略に基づき、前向きな未来投資を通じた事業変革を実行し、産業競争力の強化を図る取組(=事業適応)(図表2、3参照)についての事業者の申請に対して、主務大臣が認定を与えるもので、認定事業適応事業者(経済産業省のホームページで公開)には金融支援(指定金融機関の審査と承認は必要)や税制優遇措置の適用が認められる(図表4参照)。

【図表2 事業適応の取組】
事業適応
前向きな取組
1 生産性向上・需要開拓を目指す取組
事業者が、産業構造又は国際的な競争条件の変化その他の経済社会情勢の変化に対応して、その事業の生産性を相当程度向上させること又はその生産し、若しくは販売する商品若しくは提供する役務に係る新たな需要を相当程度開拓することを目指して行う
2 全社的取組
事業の全部又は一部の変更(取締役会その他これに準ずる機関による経営の方針に係る決議又は決定を伴うものに限る。)
成長発展事業適応情報技術事業適応エネルギー利用環境負荷低減事業適応
予見し難い経済社会情勢の変化によりその事業の遂行に重大な影響を受けた事業者がその事業の成長発展を図るために行うもの情報技術の進展による事業環境の変化に対応して行うものエネルギーの消費量の削減、非化石エネルギー源の活用その他のエネルギーの利用による環境への負荷の低減に関する国際的な競争条件の変化に対応して行うもの
税制措置欠損金の控除上限の特例DX投資促進税制カーボンニュートラル投資促進税制
【図表3 事業適応の定義・取組のイメージ】

 令和3年度改正により創設された、カーボンニュートラル投資促進税制、DX投資促進税制、及び繰越欠損金の控除上限の特例措置は、施行日(2021年8月2日)以後に事業適応計画の認定(エネルギー利用環境負荷事業適応の認定、情報技術事業適応の認定、成長発展事業適応の認定)を受けた事業者(認定事業適応事業者)が、認定事業適応計画に従って設備投資等を行った場合に適用される。

 DX投資促進税制と繰越欠損金の控除上限の特例措置を受けるには、事業適応計画の認定に加えて、生産性の向上又は需要の開拓に特に資するものとして主務大臣が定める基準(情報技術事業適応の課税の特例(DX投資促進税制))、経済社会情勢の著しい変化に対応して行うものとして主務大臣が定める基準(成長発展事業適応の課税の特例(繰越欠損金の控除上限の特例措置))をそれぞれ満たす必要がある。従って、課税の特例を申請しない認定事業適応事業者は金融支援のみを受けることになる。

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