[視点]

2025年2月号 364号

(2025/01/15)

敵対的買収はなぜ友好的買収と異なる扱いをうけるのか

松中 学(名古屋大学 教授)
  • A,B,C,EXコース
1 はじめに

 敵対的買収に対して、一般的な有事導入型防衛策を用いる場面を考える(注1)。取締役会が発動を決めると、株主意思確認総会においてそれを承認するかどうかを判断する。なぜ、対象会社の取締役会が同意していない買収に限って、法令に定められていないプロセス——ここでは買収への応募という株主の判断に先立って、株主総会において防衛策の発動を承認するかどうかを決めるプロセス——を課すことが正当化できるのだろうか。

 防衛策の正当化根拠にも様々なものがあるが、株主が合理的な判断をするための情報や時間の確保、強圧性の排除(あるいは強圧性を排除した状況で意思決定をすること)といったものは、ある程度支持を得ているだろう(注2)。いずれも、ある買収に取締役会が同意しているかどうかとは独立のものであり、友好的買収でも問題になり得る(注3)。それでは、これらの点で問題のある友好的買収(例えば、一定の部分買付け)についても、公開買付けなどに先立って株主総会の承認を経る仕組みを入れるかというと、そのような話にはなりづらい(注4)。

 本稿で検討するのは、防衛策の正当化根拠自体ではなく、なぜ友好的買収と敵対的買収でこのような制度的な対応の差があるのかである(注5)。この問題は必ずしも明確に議論されていないが、買収の弊害に対して防衛策による対処を認めるのであれば、必然的に友好的買収と敵対的買収で異なる扱いを行うことになり、なぜそれが望ましいのかは問われよう。また、日本では、取締役会が株主に代わって買収の価値について判断するのを基本的に認めないことと整合的な説明が必要になる。以下では、敵対的買収と防衛策のルール設計という観点も踏まえて検討したい。

2 敵対的買収を友好的買収と別異に扱う理由

 防衛策の正当化根拠として、


■筆者プロフィール■

松中氏松中 学(まつなか・まなぶ)
名古屋大学大学院法学研究科教授。専門は会社法、商法、金融商品取引法。近時は新株発行に加えて敵対的買収などを研究テーマとしている。引用したもの以外の関連する論稿として、松中学「敵対的買収と独立委員会」MARR339号(2023)、松中学「敵対的買収防衛策に関する懸念と提案——近時の事例を踏まえて」別冊商事法務470号(2022)134頁、松中学「主要目的ルール廃止論」久保大作ほか編『(𠮷本健一先生古稀記念論文集)企業金融・資本市場の法規制』(商事法務、2020)189頁。その他、ガバナンスの研究として、松中学「取締役の任務懈怠責任と利益相反」齊藤真紀ほか編『(川濵昇先生・前田雅弘先生・洲崎博史先生・北村雅史先生還暦記念)企業と法をめぐる現代的課題』(商事法務、2021)279頁等がある。

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