左から安井桂大氏、武井一浩氏、内ヶ﨑茂氏
<目次> はじめに 1 サステナビリティ・ガバナンスをめぐる上場会社法制の動向サステナビリティ開示基準への対応が求められる 気候変動→人的資本/人権→自然資本 2023年1月の欧州CSRDの発効 サステナビリティ・デューディリジェンスの実施を求める欧州CSDDDが2024年7月から施行 サステナビリティ情報開示に対する保証 日本におけるサステナビリティ・デューディリジェンスの実施とそれに伴う諸対応 サステナビリティ・ガバナンスへの真摯な取り組みは企業の成長戦略となる 2 上場会社の攻めのガバナンスの実践~サステナビリティ・ガバナンスを踏まえて~(1) 目指すべき取締役会のあり方サステナビリティ・ガバナンスを実践する骨太な成長ストーリーのあり方 CEOとは“Culture+Employee+Organization” 執行側にCxOチームがあってこそのボードの監督機能 全時間軸+全ステークホルダー向けのエンゲージメントを行うSocial Innovation Board 重要性が高まるリスク対処の適切なプロセス整備 人財+知財+多様性によるサステナビリティ・ガバナンスの実装化 CEOがコーポレートガバナンスやボードの形をしっかり提案していく カンパニーセクレタリー機能の整備 スキル・コンピテンシーマトリックスの好事例 Social Innovation Boardの機能性のためにも重要となるサステナビリティ・デューディリジェンス CxOチーム組成の重要性(CEOの人的資本改革) (2) 攻めのガバナンスに結びつけるサステナビリティ・ガバナンスのあり方サステナビリティ・ガバナンスは世界で共通認知されている 取締役会のアジェンダは棚卸しすべき 指名・報酬・監査に次ぐ第4の委員会としてのサステナビリティ委員会 Royal Dutch Shellの事例 Unileverの事例 Rocheの事例 Novo Nordiskの事例 日本企業の取り組み (3) 人的資本経営を実践するガバナンス人的資本ガバナンス委員会の設置 人的資本経営を訴求するストーリーを構成する7要素 人的資本への投資の可視化 事業戦略と人財戦略の統合が日本企業の課題 人財のベストオーナーシップとポートフォリオ戦略が問われている 人的資本戦略を実践するCxOチームの組成 従業員への株式交付の拡充 指名・報酬ガバナンスとの統合・リンク 人財ポートフォリオ戦略からのガバナンス改革がキモ (4) 闘える経営力が求められている「Aを立てればBが立たず」というサステナビリティ・イシューの特性 「闘える力」の礎となるデュー・プロセスが重要 (5) 最後に
はじめに
武井 一浩(たけい・かずひろ)
西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 弁護士(パートナー) 1989年東京大学法学部卒、96年米国Harvard大学ロースクール(LL.M)卒、97年英国Oxford大学経営学修士修了(MBA)。91年弁護士登録、97年米国NY州弁護士登録。 主な著書(共著を含む)として、「コーポレートガバナンス改革と上場会社法制のグランドデザイン」「サステナビリティ委員会の実務」(商事法務)、「コーポレートガバナンス・コードの実践〔第3版〕」(日経BP)など。
武井 「本日はお忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございます。 『上場企業法制の最新動向2024年版』ということで、毎年、上場会社の経営等に影響のある企業法制の振り返りをしています。現在も経済成長戦略が日本に求められ、それに伴う上場会社の成長戦略、それはガバナンス論に結び付いて、『攻めのガバナンス』『稼ぐ力の強化』が求められています。2023年からの『資本コストと株価を意識した経営』の施策が進み、NISA改革も進み、資産運用立国も進んでいます。それと同時並行で、企業がサステナビリティ・イシューと向き合った経営を行うことが企業のレジリエンスに直結しています。ガバナンスは企業の持続的成長のための仕組みですので、サステナビリティの時代に企業が成長するためのサステナビリティ・ガバナンスのあり方は、今の日本企業を取り巻く最も重要なイシューとなっています。
ガバナンスは、日本企業の持続的な成長を実現するための仕組みです。日本で経済成長戦略を実現するために企業の成長戦略の実現が求められる中、ガバナンスの実質化は経済成長の実現に向けた政府の重要な施策となります。 そこで本日は、現下の日本企業の成長戦略の最重要課題の1つである、サステナビリティ・ガバナンスの実践、実務について取り上げます。 サステナビリティの現場では、欧州を含めたグローバルなハードローなどから来ている要請からの影響も少なくありません。こうした要請なりグローバルな流れに日本企業は向き合っていく必要があります。そこで、まず法制度の面について、サステナビリティが専門の安井弁護士からお話しいただきます。 その上で、上場企業経営における実務面について、この分野の第一人者であるHRガバナンス・リーダーズの内ヶ﨑茂社長にお話していただきます。内ヶ﨑社長には大変お忙しいなかお時間を割いていただきましてありがとうございます。こちらの座談会には初登場ですので、最初に簡単に自己紹介をいただけましたらと思います」
内ヶ﨑 茂(うちがさき・しげる)
HRガバナンス・リーダーズ代表取締役社長CEO 早稲田大学大学院法学研究科修士課程および商学研究科修士課程修了。日本で初となるサステナビリティ・ガバナンスの実現を目指すコンサルティング会社「HRガバナンス・リーダーズ」(HRGL)を設立し、日本発の多くのグローバル企業のボードアドバイザリーに携わる他、行政・イニシアティブ・メディア・アカデミアでの提言や研究会・委員会活動等を通じて日本企業のガバナンス改革をリードする。会社としてスチュワードシップ・コードを受け入れ、ICGN、PRIや経団連等にも加盟し、企業と投資家を結ぶ存在を目指す。『サステナビリティ・ガバナンス改革』(共著)『サステナビリティ情報開示ハンドブック』(共著)等、書籍・論文・テレビ出演・新聞掲載・講演会等多数。
内ヶ﨑 「HRガバナンス・リーダーズ(HRGL)の内ヶ﨑です。よろしくお願いします。 グローバルに展開する日本企業、特に大企業CEOと日々1on1(ワン・オン・ワン)ミーティングを実施している中で感じているのは、会社の未来像とビジネスモデルについて、いちばん本気で向き合い、覚悟を持って考えているのは当然CEOだということです。社会に貢献しながら会社をサステナブルに成長させたい、そういう思いは日々強くなっていると感じています。世の中の不確実性がどんどん深まっていく中で、長期、中期、短期の全時間軸で、そして株主、投資家、従業員、消費者、社会、NGO、NPOも含めた全方位でのステークホルダー経営が求められていて、経営の難易度がどんどん高まってきています。そういった中で、CEOがアニマルスピリッツをもって、リスクを取って会社を成長させる、そういった環境整備をしていくことが重要で、その環境としてサステナビリティ・ガバナンスが重要だと思っています。具体的には、強い経営チームをつくり、強靱な取締役会をつくって、ステークホルダーの信頼を獲得していくということです。HRGLはそういった大企業CEOのパートナーとして、黒子としてCEOの進む力になるために生まれたスタートアップのコンサルティングカンパニーです。本日はよろしくお願いします」
1 サステナビリティ・ガバナンスをめぐる上場会社法制の動向
武井 「では、安井先生から法制度面の話をお願いします」 安井 「西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 弁護士の安井です。企業のコーポレートガバナンスやサステナビリティに関連する取り組みなどを日頃からご支援させていただいております」
● サステナビリティ開示基準への対応が求められる
安井 桂大(やすい・けいた)
西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 弁護士(パートナー) 2009年東京大学法科大学院卒。19年The London School of Economics and Political Science (LL.M.)卒。10年弁護士登録。金融庁企業開示課でコーポレートガバナンス・コードおよびスチュワードシップ・コードの改訂を担当。また、フィデリティ投信株式会社運用本部でエンゲージメント・議決権行使およびサステナブル投資の実務に従事した経験を有する。 主な著書(共著含む)として、『「ビジネスと人権」の実務』(商事法務)、『サステナビリティ委員会の実務』(商事法務)、『コーポレートガバナンス・コードの実践〔第3版〕』(日経BP)など。
安井 「私からまずはサステナビリティ・ガバナンスに関する近時の法制動向についてご紹介します。
サステナビリティに関するガバナンスというと非常にすそ野が広い話になりますが、近年では特に情報開示に関するルールの策定が急速に進んでいますので、そのあたりの足もとの動向と、それとあわせて実務レベルで取り組みが進んでいる、行為規範としての企業におけるサステナビリティに関する
デューディリジェンス の実施などについて、簡単にご紹介します。
2023年のMARRの企画で、市場に向けたロジカルな情報開示をテーマに座談会(
市場構造改革と資本市場に向けた『ロジカルな発信』 )をさせていただきました。そこともつながる話からまずは始めさせていただければと思います。近年、特に上場会社においては資本市場と向き合いながら経営を進めていくことが求められる『エクイティガバナンス』の潮流の中で、資本市場では『将来への投資』による将来キャッシュフローの創出能力で
企業価値 をはかるという考え方が基本になります。これに対応するかたちで、企業においても『過去の実績』ではなく『将来への投資』を軸にロジカルに戦略を語ることが求められるようになっています。また、グローバルにサステナビリティが重要な経営課題となる中で、サステナビリティ課題を単にリスクとして捉えるのではなく、課題解決を事業機会としても捉えつつ、経営戦略を中長期の視点で説明していくことが期待されています。従前から中心に置かれてきた財務的な視点は引き続き重要ですが、それとあわせて中長期の戦略に密接に関連する非財務情報についても織り込んだかたちで情報開示を行い、時間軸を伸ばした中で経営戦略を語っていくことの重要性が増しています」