M&Aの際にESG要素を考慮する意義 近年、リスクとしてのみならず収益機会としても重要になるESG課題への取組みの強化は、あらゆる企業にとって喫緊の課題となっている。そうした中、企業戦略の重要な選択肢の1つであるM&Aを実施する際にも、ESGの観点からの検討や対応の必要性が高まっている。
ESGに関連するリスクがビジネスに深刻な影響をもたらす場面が多く見られるようになってきており、その一方で、足もとではESGに関連する事業機会に着目したESGドリヴンの取引も増加傾向にある。ESGに関連したリスクへの対応や事業機会の獲得に向けては、自社だけでは十分な対応が難しい場合もあり、M&Aを通じた他社とのコラボレーションは、重要な経営上の選択肢になっている。そうしたESGの観点に着目したM&Aに際しては、対象会社におけるリスク要因、あるいはM&Aを通じた事業機会の獲得等の観点から重要になるESG要素について、事前に把握し適切に対処するためのESGデューディリジェンス(ESG DD)を実施すること等が重要になる。
以下では、M&Aを実施する際のESG要素を考慮した対応について、実務上ポイントになる点について述べたい。
ESG DDの実施 M&Aにおいて対象会社の株式等を取得する場合、対象会社におけるリスクを検出し、バリュエーションやM&A契約への反映等を検討するため、ビジネス・法務・財務・税務等の観点から
デューディリジェンス(DD)が行われるが、前述のような背景の中で、これらと併せてESG DDを実施するケースが増えている。例えば、ESGフレンドリーであることを重要視しているアパレル企業への投資であれば、原材料の輸入や衣類等の製造を東アジア・東南アジアのサプライチェーンに依存している場合、そうした地域における製造工程等の調査を通じて、人権を含めたESGの観点から改善点の有無を検討すること等が必要になると考えられる。
ESG DDには法務DDとは異なるいくつかの特徴があるが、
■筆者プロフィール■
安井 桂大(やすい・けいた)
西村あさひ法律事務所・外国法共同事業パートナー弁護士。2009年東京大学法科大学院(J.D.)、2019年The London School of Economics and Political Science (LL.M.)。金融庁企業開示課においてコーポレートガバナンス・コードおよびスチュワードシップ・コードの改訂を担当。また、世界有数の長期アクティブ運用機関であるフィデリティの日本拠点(フィデリティ投信株式会社運用本部)において、エンゲージメント・議決権行使およびサステナブル投資の実務に従事。M&Aやコーポレートガバナンス、サステナビリティ対応、株主/ステークホルダーアクティビズム対応、SR対応等を幅広く手がける。『サステナビリティ委員会の実務』(共編著、商事法務、2022年)、「ESGアクティビズムの動向と対応上の留意点」(資料版商事法務456号、2022年)など著作多数。