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[【投資ファンド】PEファンドの役割と企業価値向上の実際(カーライル・ジャパン)]

(2017/02/22)

【第2回】 PEファンドとの協働における成功への道

 大塚 博行(カーライル・ジャパン・エルエルシー マネージングディレクター)
 斎藤 玄太(カーライル・ジャパン・エルエルシー ディレクター)

 第1回の「10年後を見据えて ~プライベートエクイティー(PE)ファンドの効能~」においては若干哲学的にPEファンドの役割を述べたが、今回はより具体的なテーマにおいて事業会社とPEファンドの協働意義及びPEファンドの付加価値について触れたい。

 PEファンドとの協働によるMBO(マネジメントバイアウト)を検討する経営陣から、「あなた達の付加価値は何ですか?」と問い掛けられることが多い。正直、PEファンドといっても様々な会社があり、業界を代表して答えられる解はないが、下記に示す内容は少なくとも筆者が属するカーライル・グループが意識しており、我々の投資先経営陣から、過去や現在を問わず評価を受けることが多い内容である。

 但し、これから述べるPEファンドとの協働意義が実際に実現されるためには、投資前の検討段階で、協働を検討する事業会社の経営陣とPEファンドの担当者が十分な協議を行い、両者間でアライメントと信頼関係が出来上がっていることが前提となる。

1.会社基礎体力(基礎的な経営の仕組みの存在と取り組みが実行できているかどうか)の検証

 人間は自らの健康状態を人間ドックなどで検査し、見過ごしていた身体の不具合を発見することがある。これは会社経営においても同じで、知らずに事業価値の毀損の兆しが現れてくる事がある。但し、会社の場合は人間ドックの検査より厄介である。というのは、業績数値の結果や分かりやすいKPI(Key Performance Indicator/重要業績評価指標)を除けば、はっきりとした検査数値や人間の身体に起こる物理的なダメージのように目に見える基準があるわけではないので、単純に判断出来ないことが多い。ここでPEファンドとの協働により第三者の目が加わることで、「客観性」がもたらされる。業界環境や個々の企業の競争力をゼロから検証することにより、変えるべき事は変え、変える必要のない仕組みなどの強みを、あらためてアンダーライト(裏書き)することが出来る。

 我々が時折目にする企業価値の毀損につながる事象として、オペレーションなどの機能面において明らかな弱さが露呈していることに気づいていない、戦略のマンネリ化による業界変化に付いて行っていないことからの競争力の欠如(付加価値の低下)、頭でっかちで理論的な戦略はあるが何かしらの事情で実行力がない、等がある。当然ではあるが、このような状態に気づかずに放置し、日々の経営だけに目線が行っていると、「何か変だな」と経営者や経営陣が思う頃には、その会社の競争力は下がり、業界における差別化要素は消え、シェアの低下とともに、最終的には会社業績への悪影響が発生する。

 なぜこのようなことが起こるか。いくつかの要因が考えられる。本来、日本企業は新興国企業のように、事業を営む上での根本的な機能やビジネスモデルが物理的に存在しないということは少ない。相応に優れた技術や製品や基礎能力を持った人材など、新興国企業では往々にして欠如している基本的条件は存在する。ただ、オーケストラにおいて演奏者の一人ひとりが一流であっても、その曲の解釈が各々で違っていたり、演奏者全体を取り仕切る指揮が乱れれば、演奏は二流や三流となってしまう。これを会社経営に置き換えると、当然ながらその優れた機能やビジネスモデルがミスマッチを起こし、潜在力が発揮できなくなる。このような状態が放置され自ずと会社の基礎体力は低下していく。このような基礎体力を失いつつある会社が、場当たり的な成長戦略を描き、新規事業展開やM&Aなどを力ずくで行っても、企業価値向上を実現することは容易ではない。それどころか、特にM&Aの場合は、買収した相手においてもその企業の価値を毀損させるリスクが増す。

 会社の基礎体力低下の具体的な要因として我々がよく指摘し、その改善を促す代表的な事項として下記3点が挙げられる。

①合理性をもった「振り返り文化」の欠如

 「経営は結果がすべて」といっても何時でも素晴らしい結果が出るとは限らない。数字は嘘をつかずに結果を示すが、その数字が良い時でも悪い時でも、適切に分析と解釈を行うことができれば、先験的見地の元、良い結果を導くための将来アクションへの暗示を得られると思っている。会社では月次の経営会議が行われるが、そこで各事業責任者が数字を読み上げ、深度を持った分析に基づくことなく、「出来た、出来なかった」を感覚的、主観的に語ることが散見される。これでは当然ではあるが、過去に取った戦略の何が寄与して何が寄与しなかったのかも不明であり、今後是正すべき事項が何であるかも分からない。その場合は、翌月も翌々月も同じような説明が繰り返され、結果が改善されず1年が経過し、前年比の伸びもなく、業績も低調となる。経営陣皆でマクロ環境が悪かったなと慰めあい、また来年度も同じ運営が繰り返される。

 過去分析において外的要因と内的要因が整理されていないことも往々にして起こることである。外的要因には、その業界におけるマクロトレンドや、為替等の経済動向、顧客やサプライヤーなどの取引先の戦略・業績動向などが該当する。もちろんこのような外的要因が起きていることを経営の言い訳に出来るわけではないが、その要因をなかなか自らの範疇でコントロールはできないため、それが続く限りは短期的な解決は難しいことが多い。一方、内的要因は自らの要因によるものでは、営業活動における顧客とのタッチポイントの不足、オペレーションの見直しによる新たな取り組みにおけるアクション遅れなど、結果として業績への悪影響に直結する分かりやすい課題などが挙げられる。外的要因と内的要因が混在した分析や議論は、必ずと言えるほど今後の間違ったアクションへと導くことが多い。まず治癒すべきは自らのコントロールが効く内的要因であるが、それが何かを浮き彫りにするためにも外的要因と切り離せる分析力やモニタリングの仕組みが必須となる。

②健全な「見える化」の仕組みの欠如

 どれだけ優秀な経営者であっても、目の前に並ぶ経営数値やKPIが、事業の今後のアクションを決定するに足るものでないと、判断を誤ることが起こり得る。そこで重要なのが合理的な「見える化」の存在である。合理的な「見える化」とは、適切なタイミングに、適切なデータが、適切な役割の者に提示される仕組みを作ることである。ある経営会議での経験で、膨大なデータポイントが示されたことがあるが、これは事務方の自己満足であって、このデータ量を真の意味で読みこなせる経営者はいないと思うし、逆に「見える化」という名の元の「見えなくする化」と感じる。健全な「見える化」で大事なのは、経営者と経営会議(多くの経営幹部が時間とリソースを使うという意味で、その会社で一番コストが高い会議体)が、短期や中期の戦略イニシアティブの修正やアクション見直しなど「振り返り」と「実行」につなげられるよう、このメンバーが知るべき重要数値やKPIだけを「見える化」して、妥当性のある議論や結論を導けるようにすることである。また、健全な「見える化」とは、結果として権限移譲をもたらす事が出来ると思っている。この「見える化」の延長線として、妥当性と蓋然性をともなった効率かつ効果的なモニタリングの仕組みが出来ると、経営会議における報告の信頼感が増す好循環が生まれ、各部門や事業セグメント長への権限移譲が自然に行われるようになり、結果としてスピード経営の一助になることが多いというのも我々の経験則である。

③理論的な戦略(What)はあるが、誰(Who)が、いつ(When)、どうやって(How)が不明瞭であることによる実行力の欠如

 「戦略は実行されてはじめて会社業績につながる」というのは当たり前のことであるが、その当たり前が出来ないケースが散見される。そのほとんどの実例は、戦略から実行アクションプランへの落とし込みが出来ていない事が要因と思われる。実行アクションプランにおいて、「誰」が「いつ」行うかを明確にすることで「何を」が達成可能となる。予算や中期戦略のイニシアティブについて議論する際には、「何を(What)」をより詳細にすることも大事であるが、同時にその「実行手段(How)」を「誰(Who)」が「いつ(When)」行うかの落とし込みが重要である。これがなければ、イニシアティブは年度の途上において、実際に実行されているのか、実行されていても想定スケジュール通りに効果は出ているのかなどの把握(モニタリング)が困難になり、年度が終わったところで初めて「結果としての数字が達成されなかった」という事実、すなわち戦略が「絵に描いた餅」であったことに気づくことになる。

 これらの課題は非常に基礎的なものであるが、事業運営上の歴史的慣習に縛られているケースが多く、社内に新しい経営のシステムを浸透させるノウハウも必要となるため、課題として気づきはあるものの、具体的な解決には行けずに苦労している企業は多いと思われる。昨今においては、そのような課題認識をもった会社経営者が、先見の明をもち、これらの基礎体力系課題の抜本的解決と、その後の確実な成長戦略の遂行を目的として、客観性とノウハウをもつPEファンドとの協働を考えるケースが増えてきていると実感する。

2.長期的視点から見た中期戦略の構築

 会社経営は、常に長期視点にたって今後の2~3年の中期戦略や中期計画に落とし込む必要があり、かつその中期計画に基づき予算形成を行うべきと考える。事業会社がPEファンドと協働を始めるときに、このようなことをゼロベースで考える良い機会となるケースが多い。繰り返しになるが、PEファンドが客観性を提供するなかで、経営陣も一度固定観念を捨て、ゼロから考えてみることで、新しいアイデアや戦略構築の前提となる環境変化など、今まで見えていなかったものが見えてきたりすることもあるだろう。これらのプロセスの結果として今までの考え方、やり方を踏襲するものもあれば、それらをガラッと変えるものも出てくることになる。このような長期視点に立つ見直しや再考を行うことが、歴史が長い会社において常に業界でトップを走り続ける力を養うことになっていると考える。ただ統計学的に見ると、30年前に隆々としていた会社で、現在も同じようなポジションを保持できている会社の数は少ないと感じられる。

①あるべき10年ビジョンとは

 第1回の連載で述べたとおり、会社が永続性を構築するためには常に10年後の「あるべき姿」をイメージするべきである。具体的には、10年後の数値的目標を策定することを目的とするのではなく、10年後にどのような会社になっていたいかというビジョンを作り、経営陣と従業員で共有できるものとすることが重要である。往々にして業界を取り巻く環境は変化する。その変化を将来に渡り完全に見極めることはどんな優れた経営者でも不可能である。ただ、一定の予見を立てることは可能である。その際、その業界に隣接する業界やバリューチェーンに関する知見を持っていると、この予見の精度は上がっていくと考えられる。幸いにカーライル・グループは、世界で多くの企業に投資しており、多くの業界や地域における変化を適時に読み取り、投資先にフィードバックすることができる。もっとも、これらの変化は、個々の企業によって左右できることは少なく、ここは「Given=受け入れざるをえないもの」として考え、会社の10年ビジョン策定の前提に織り込むべきと考える。

②あるべき中期経営計画とは

 10年ビジョンは一定程度抽象的なものになることが多いが、そこに向かって進むために今後2~3年を「どう考え、どう行動するか」の意思を込めるのが中期経営計画である。例えば、売上項目でいえば、既存事業における防衛面(競合他社のマーケットシェア拡大からの防御)と攻撃面(自らのマーケットシェア拡大)の施策、育ちつつある新規事業の拡大施策、今後作り上げる事業の領域やその進出手段(自力かM&Aか)などが網羅されることとなる。ただ、これらはあくまでも10年ビジョンを見据えた2~3年の会社全体の「あるべき姿」を考慮した、トップダウンの発想からの検討をもって開始すべきである。また、中期経営計画には、適切なリスクを取って実行するべき戦略・施策入れ込むべきであろう。根拠は必要であるが、経営リスクを取ることがなければアップサイドを享受することは経済理論からいっても出来ない。年度予算をなんとなくの成長率で伸ばして3年後の中期経営計画を作るケースを見ることがあるが、そのようなものは予算の延長目標であって、本来あるべき中期経営計画とは異なるものと言わざるを得ない。
 

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