[【PMI】 攻めのPMI -企業価値最大化の契機としてのM&A(マッキンゼー・アンド・カンパニー)]

(2019/06/27)

【第5回(最終回)】 新たなトレンドに ~「変革のPMI」の兆し

野崎 大輔(マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー)
加藤 千尋(マッキンゼー・アンド・カンパニー アソシエイト・パートナー)
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  本連載では、「攻めのPMI~企業価値最大化の契機としてのM&A~」と題して、ディールによって生まれる価値創造の目標を高く設定し、PMIによって確実に果実を刈り取るための知見を紹介してきた。価値創造に注目した理由は、日本企業がより意欲的な目標を掲げ、グローバル企業に変革するための契機となるM&AとPMIを行う際に参考にしていただきたい、と考えたためである。

  最終回では、M&Aにおける「変革」をテーマに取り上げる。ディールによっては、買収する企業にとって自社の命運を大きく左右するものであるが故に、「変革」と位置付けられるものがある。例えば、ディールの規模が非常に大きいもの、投資命題を成立させるために必要な価値創造の水準が達成困難なもの、あるいは業界構造を変化させるもの、といった案件が当てはまる。

  このような案件で大きな成功を収めるには、本連載で述べてきたような価値創造のベストプラクティスを実行するだけでなく、「変革」を成功に導くための方法論を踏襲することが成功の鍵になると考える。本稿では、どのようなM&A案件が「変革」と呼べるのかを明らかにし、マッキンゼーのM&AやPMIだけでなく、「変革」についての経験、知見を踏まえ、「変革」となる案件でのPMIをどのように成功に導くかを説明する。

「変革」の契機となるM&A案件はどういったものか

  マッキンゼーは、過去20年以上に渡って、世界中のM&A活動の調査を基にディールの分類を行い、分類ごとに株主価値の実現を分析してきた(図1)。例えば、「プログラマティックM&A」と呼んでいるタイプでは、企業はM&Aを習慣的に実行する。マッキンゼーの研究では、最低でも年に1-2件、通常は3-4件のM&Aを行い、10年の累積で企業価値の20%を超える割合をM&Aで獲得している企業と定義している。一方で、「大型案件」のタイプは、1つのディールを通じて自社の時価総額の30%以上を獲得するアプローチを指す。

  マッキンゼーの研究によると、プログラマティックM&Aのアプローチを継続的に用いている企業は他社よりも高い価値創造を実現している。その理由は、長期戦略に必要な能力を段階的に入手できることや、社内にM&AやPMIの経験値が蓄積することが挙げられる。一方、「大型案件」のアプローチを用いている企業は、平均では株主価値を棄損しているが、結果の幅に大きな広がりがある。そして、このような大きな案件では、M&A実行の2年後の株主価値の水準が、その後の長期的な株主リターンと相関しており、PMIの成否が企業の将来にとって重要であることが分かっている。これは、世界中の企業にも日本の企業にも同様に見られる傾向である。

[図1]


  このような規模の大きな案件は…



マッキンゼー・アンド・カンパニー

■筆者経歴

野崎大輔(のざき・だいすけ)
マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー
M&Aや合弁事業立ち上げを含むコーポレートトランザクション、事業統合マネジメント、戦略立案、次世代リーダー育成など、豊富な専門的知見を活かし幅広い分野のクライアントにコンサルティングを提供。日系企業のM&Aプロジェクトのプロセス全般における支援のほか、製造業、資源・エネルギー、消費財、ヘルスケア、戦略的投資家、機関投資家など、幅広いクライアントに関わる数多くのプロジェクトに従事。また、合弁事業立ち上げやその他のパートナーシップ締結も積極的に支援。
経営統合マネジメントにおいては、完全買収、マイノリティ投資、合弁事業立ち上げ、事業パートナーシップ締結など、様々な投資形態におけるプロジェクトに携わり、シナジー創出による投資対効果の最大化、オペレーション改善策の策定、クライアント企業の経営陣とチームメンバー双方を巻き込んだインプリメンテーションプログラムの開発に注力している。
2003年9月から2006年8月までマッキンゼーに在籍し、その後2012年6月に復職。Kohlberg Kravis Roberts (KKR)およびゴールドマン・サックスでの勤務経験を持つ。
東京大学大学院人文科学研究科英語英文学専攻修士課程修了。

加藤千尋(かとう・ちひろ)
マッキンゼー・アンド・カンパニー アソシエイト・パートナー
M&Aやアライアンス、PMIや成長戦略を専門に、電子機器、半導体など製造業のクライアントを中心にサポート。シリコンバレー・オフィスでは、現地企業の成長戦略やM&A戦略および大型PMIに従事。日本でもクロスボーダーのM&Aやアライアンス、PMI、テクノロジー戦略といったテーマを専門に担当。また、製造業企業の全社変革プロジェクトにも従事。2007年にマッキンゼー入社。2013年にアメリカのシリコンバレー・オフィスに転籍、2017年に日本オフィスに復帰。
京都大学理学研究科修士/スタンフォード大学にてMBA取得。





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