[【DD】M&Aを成功に導くビジネスDDの進め方(PwCアドバイザリー合同会社)]

(2020/03/09)

【第3回】事業構造をどう分析していくか

高橋 正幸(PwCアドバイザリー合同会社 ディールズストラテジー&オペレーション シニアアソシエイト)
  • 無料会員
  • A,B,C,EXコース
はじめに

 第2回では「コマーシャルDDとオペレーショナルDD」と題して、それぞれの実施概要や留意点について解説しました。第3回では、どのように事業構造分析を行っていくのかについて、解説したいと思います。

(1)事業構造分析の位置づけ

 まずは、ビジネスDDにおける事業構造分析の位置づけについて言及しておきたいと思います。ビジネスDDの目的は、第1回で解説したように対象会社の将来計画を精緻化することです。将来計画の精緻化には、対象会社の深い理解が不可欠です。対象会社の事業構造を外的要因、内的要因の視点で分析を行うことで、対象会社を深く理解することが可能となります。
 
 事業構造分析を行うにあたり、その前段として業界構造分析を行うことで業界全体のメカニズム、競合の動向について整理していきます。業界構造分析では、4つの視点から分析をしていくケースが多いです。①市場成長性、②市場シェア、③バリューチェーン/ビジネスプロセス、そして④新規参入リスクです。これら業界構造分析を基にしながら、事業構造分析として対象会社の競争力を考察します。また、定性的な観点にフォーカスしがちですが、財務面での分析も必要となってきます。それでは、それぞれ詳しく解説していきたいと思います。

(2)業界構造分析①:市場成長性

 まずは、1つ目の市場成長性の分析について解説していきたいと思います。最終的には、市場規模の将来見通しという定量的なアウトプットとして分析結果を整理していくことになりますが、進めるにあたり2つのステップを踏んでいきます。

 第2回でも一部言及しましたが、対象となる市場を明らかにすること(セグメンテーション)をまず始めに行います。例えば、アパレルであればSPAとして事業展開するプレイヤーと、ラグジュアリーブランドとして路面店や百貨店等を主要チャネルとしているプレイヤーでは、業界の括りは同じであっても捉えるべき市場の動向が異なることは、想像に難くないと思います。

 対象となるセグメントを明らかにした上で、市場成長性について分析を進めていきます。重要なのは背景を詳らかにしていくことです。実務的には、出版されているレポートなどを参考にすることもありますが、レポートなどがない場合には、市場のキードライバー(何によって売上や利益が左右されるか)を明確にし、キードライバーを踏まえてモデルを作成することもあります。また、市場規模や成長率といった数字が分かったから終わりではなく、どういったメカニズムでもって市場規模が変動していくのかまで深掘りします。

 市場規模が変動する要因は、当然ながら市場によって全く異なります。したがって、闇雲に分析するのではなく、仮説をもって検証することが重要です。製品やサービスの特徴を踏まえながら仮説を立てていくことがポイントであり、その仮説を定量的な分析や、エキスパートインタビュー等によって検証します。よくある落とし穴は、「過去がこうだった」ということを基に将来の見通しを立ててしまうことです。要因を洗い出すことは重要ですが、その要因を踏まえた上で「将来はどうなりそうか?」という視点を忘れないことが肝要です。また、市場規模は用途先市場の影響を強く受けますが、他にも規制による影響、代替品による市場縮小、法人向けビジネスサービスであれば人材不足の影響など、市場規模に影響を与える要因は幅広く存在します。それらを構造的に捉え、市場規模を変動させるメカニズムとして理解することが重要です。

 また、立ち上がったばかりの市場であれば、その成長余白がどのくらい…

■筆者履歴

高橋 正幸(たかはし まさゆき)
PwCアドバイザリー合同会社ディールズストラテジー&オペレーション、シニアアソシエイト。慶應義塾大学卒業後、大手自動車部品メーカーを経て現職。クロスボーダーを含む多様な業界におけるビジネスデューデリジェンスの経験を有する。他にも、構造改革支援、統合(PMI)支援、事業戦略立案支援、組織設計・ガバナンス設計支援など幅広いコンサルティングを実施。

続きをご覧いただくにはログインして下さい

この記事は、無料会員も含め、全コースでお読みいただけます。

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事

スキルアップ講座 M&A用語 マールオンライン コンテンツ一覧 MARR Online 活用ガイド

アクセスランキング