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[書評]

2015年6月号 248号

(2015/05/20)

今月の一冊 『日本の針路』

 薮中 三十二 著/岩波書店/2000円(本体)

今月の一冊 『日本の針路』薮中三十二 著/岩波書店/2000円(本体)  「熟田津(にぎたつ)に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな」

  万葉集に収められた額田王(ぬかたのおおきみ)のこの有名な歌を引用しながら立命館大学総長特別招聘教授の薮中氏は日本の東アジア外交史論を説き始めている。この歌は、西暦661年、斉明天皇が百済復興のため自らが北九州に向かう途中、愛媛の松山の港に寄ったときに詠んだものである。ちなみにある万葉集の研究者によれば、額田王のつくる歌は古代韓国語と倭語の両方で読めてしかも意味がそれぞれ違い、それが暗号の伝達となるように詠んだ天才だったという。

  百済は、唐と新羅の連合軍の攻撃によって滅亡の危機に瀕し、中大兄皇子は百済を救うために唐と新羅の連合軍と戦うことを決めた。中大兄皇子は百済王子と親しく、人質として20年間飛鳥にいた王子を百済に送り返し、百済王朝を復活させようとしていた。663年、倭国は白村江(はくすきのえ)の戦いで唐・新羅連合軍に敗れ、そして百済は完全に滅亡した。

  薮中教授がこの物語から書き始めたのは、唐・新羅連合軍と倭の戦いが現在の中国・韓国が共同して日本を攻めたてている状況と重なって見えるからという。

  新羅は唐の支援を受けて半島を統一した。しかし統一後に唐が突厥の復興などによって弱体化し始めたのを見て、倭へ朝貢することによって支援を求め、唐の半島への関与に抵抗する。唐が再び隆盛を取り戻すと今度は唐への忠誠を誓い、倭には対等の関係を主張していく。まさに今日の韓国の外交スタイルの原型がそこにあるようだ。

  薮中教授は日本外交の歴史の理解を深めるために、時代をさらに古代に遡っていく。

  高句麗広開土王の陵碑は414年に建立されたものだ。今は中国領にあるその碑文の中に396年に倭が百済と新羅を臣民にしたと解される記述があり、また高句麗に攻め入った倭を広開土王が打ち破った功績が書かれている。これは半島側の記録として重要な意味を持つ。

  5世紀は、倭の五王の時代である。前方後円墳がつくられた時代だ。中国の宋書に「倭、新羅、任那、加羅、秦韓、慕韓六国諸軍事、安東将軍、倭国王」という称号が与えられたとの記述がある。倭が朝鮮半島に軍事的関与を強め支配していたことが窺い知れる。文化と技術は朝鮮半島から伝わったようだが軍事力は倭の方に分があったようだ。

  589年、中国に隋という巨大な統一国家ができた。これで東アジア情勢は一変する。中国に小国家が乱立している間は朝鮮諸国も倭も中国に対しての脅威を抱くことはなかった。しかし統一国家となれば話は違う。早速に大和朝廷は607年に遣隋使を送る。聖徳太子の時代だ。太子は国書の中で対等の関係を築くよう腐心する。隋の国王はこれを無礼だと怒るが、隋は高句麗という大国と戦争していたこともあり、翌年には正使を推古天皇に送ることで倭国との関係に配慮する。

  隋が滅び、628年、唐の時代となって、さらに強大国が出現した。倭は、遣唐使を頻繁に派遣していく。このように当時の倭国は国際情勢の情報をよく収集し、迅速・敏感に行動していた。4世紀から8世紀までの時代、日本は国際的な国家運営をしていたのだ。そして当時の奈良は国際都市だった。

  薮中教授が古代から今に至るまでの日本外交史を書物にまとめたのは、日本は決して閉鎖的で国際情勢に鈍感な国民性を持った民族ではなく、活発な国際外交を展開できるDNAをもともと持っているし、自信を持って現在の複雑な外交を乗り切ってもらいたいと考えているからだ。

  では、大国中国とどう向き合うか。

  21世紀のアジアでは、大中国の出現という巨大な変化が起きている。G7の時代は終わった。中国はアメリカとの二大大国関係構築を真面目に構想している。欧州では中国がアメリカを追い抜くと予想しているのが大勢で、中国との経済的な結びつきを強化しようとしている。メルケル首相は大ミッションを率いて7回も中国を訪問している。アメリカも中国と密接な関係を築き、日本以上に濃密な話し合いをしている。経営危機にあったゼネラルモーターズも中国での自動車販売で蘇った。アセアンも中国との貿易が活発だ。どこの国も中国とは争いたくないと考えている。

  では日本はどうするのか?

  薮中教授は7世紀の先達の外交から学ぶべき点が多いという。国際情勢を的確に判断し、世界の流れを正確につかみながら、何が日本の国益となるか冷徹に判断し、外交を進めていくべきだという。そうしなければ日本は孤立してしまうと懸念する。

  そして、東アジアで過去100年間、最強国家だったという歴史を持つ日本としても中国の台頭を自然なものと受け止めなくてはならない。その上で中国が大国化する過程で様々な課題が噴出してくることは避けられないので、その際に中国が独善的で、横暴で、攻撃的な外交を行うことがないよう、アセアン諸国と連携し、さらにアメリカや豪州を巻き込み、中国が国際ルールを尊重するよう、日本がリーダーシップを発揮しなくてはいけないと提案している。中国包囲網は非現実的で不可能な選択だ。したたかで賢い外交を展開することがアセアン諸国とアメリカが日本に望んでいることだと教授はいう。

  朝鮮半島とどう向き合うか?

  古代から朝鮮半島には分裂した国家があり、対立があるといずれかが日本に支援を求め、中国が大国化すると今度は中国に頼り、手のひらを返したように日本との間で対等関係を主張してくるというのが歴史的な通常のパターンだ。現在の韓国の大統領も中国の国家主席の懐の中に入り込み連合して日本を攻撃している。

  日本の対応策としては色々と考えられるが、結論としては、当分、韓国のことは放置することが上策という。日本が韓国に対し日本攻撃の弾を与えない限り、日本攻撃は空振りとなる。世界から見て、韓国への関心は低い。日本としてもさしたる実害はない、と薮中教授は考える。

  「植民地化」を認めろと韓国はいう。すでに村山談話で植民地化を日本は認めた。それを確認するだけでいい。慰安婦問題については、こころからの謝罪をし、見舞金も出した。政府保障は、1965年の日韓基本条約で請求権相互放棄合意があり、これは行えない。これが国際スタンダードであり、その立場を堅持すればアメリカとしても、それ以上日本に何かをすべきと要求することはできない。慰安婦問題で日本がさらに譲歩し政府保障をすれば、韓国は次には強制労働の問題もつついてくるだろう。国際ルールを超えての譲歩はすべきでない、と教授は指摘する。

  さて、教授は「植民地化」についての議論を深めようとしていない。これはすでに村山元総理大臣が公式に認めたからだ。それはそれでいいのだろう。

  しかし、韓国は日本との併合に合意したのであり、ナチスドイツがオーストリアを併合したことと同じではないかと議論する人もいる。オーストリアは第二次大戦の当事者であり「加害者」としての謝罪を行っている。つまり韓国は併合を自らの意思と認めれば第二次大戦での「加害者」となり、日本の「植民地」だったとすれば自分たちは「被害者」なのだと主張できるわけだ。アメリカは韓国を被害者とし戦争責任を日本だけに限定した。また戦勝国による東京裁判も国際法的に問題だったという議論も別にある。歴史の研究と論争は歴史学者の間で今後も続いていくのだろう。

  この書物は4世紀から21世紀の現代までの日本の外交史と今後の日本のとるべき針路を書いている。これからの日本を背負う若い人たちにぜひ読んでもらいたい大事な書物であり、これは著者の願いでもある。

(編集委員 梅本建紀)

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