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2018年1月号 279号
第109回 海外買収先業績悪化時の経営者インセンティブの取扱い 有料記事です

 竹田 年朗(マーサー ジャパン グローバルM&Aコンサルティング パートナー)
  経営者のインセンティブ(短期インセンティブ/STI:Short Term Incentive、長期インセンティブ/LTI:Long Term Incentive)は、基本的に業績に連動して支払いが決定する。すなわち、業績目標の閾値(Threshold)に届かなければ、インセンティブは支払われない。また、業績そのものではないが、株価を反映してインセンティブが減価したり無価値となったりするプランもあるし、付与されていたインセンティブが業績や株価が低調な場合に権利確定せず、消失するプランもある。このように、経営者は業績が悪い場合には応分の報いを受けるので、間違ってもそうならないように頑張る。これが、インセンティブが働く仕組みである。   ところが、業績見通しが悪化してSTIやLTIが貰えそうもないことが、買収後のタイミングによっては経営者の「自業自得」で済ませられない場合がある。すなわち典型的には、将来を悲観して経営者が辞める可能性、あるいはやる気をなくす可能性があり、これらに対して、買い手の備えが十分でなく、実際にそんなことになっては困ってしまうケースである。このような場合には、やむを得ず、買い手はインセンティブに関して何らかの融和策を講じて時間を稼ぎ、その間に事業上の対策を打つ必要がある。 買い手と買収先経営者の本来の力関係   買収先の業績計画と業績の将来見通しについては、買い手は段階的に理解を深め、かつ影響力を行使することになる。すなわち、デューデリジェンス時に内容を確認し、売却に都合のよいお化粧を見定め、買収価格に反映して買収する。次いで、クロージング後は買収先の情報に完全にアクセスできるので、速やかに業績計画を大々的に精査し、織り込める買い手とのシナジー効果を織り込み、買収後の業績計画を完成させる(いわゆる「100日プラン」)。そしてこれに対して経営者のコミットメントを求め、インセンティブプラン(短期、長期)と結合する。    今後の業績計画を自分がコミットできる内容・水準とすることについては、買収先の経営者はきちんとした議論を買い手に求める。また、買い手も業績計画に対するコミットメントを買収先経営者に求めるので、この過程は非常に重要であり、議論が熱を帯びるのも確かである。   しかし、一旦コミットした以上は、インセンティブが業績計画の達成により支払われるのは自明なので、もしその後に業績見通しが悪くなったとしても、買収先経営者は通常はあまりガタガタ言わないものである。それは、一つは約束した以上はガタガタいうのはみっともない、という経営者の矜持であり、もう一つは今年のSTIはあきらめるにして、来年のSTIの目標は仕切り直しだから、その交渉を頑張ればよい(LTIも毎年付与されるタイプであれば同様)、という現実的な割り切りである。継続勤務の意思があるのに、つまらないことを言って、買い手から睨まれては元も子もない。 買い手を驚かせる買収先経営者からの相談   にもかかわらず、買収先の経営トップが、事業見通しの先行きが悪化したことを理由に業績目標引き下げの「相談」を持ちかけてきて、買い手を大いに驚かせることがしばしば起こる。あるいは、業績目標の設定に時間がかかっている間に事業見通しの先行きが悪化し、これまでの議論を修正して、現実的な低い目標を設定したい、と大真面目に言って来るパターンもある。   買収先経営トップの心配事、あるいは大義名分は、「これまで達成できるとされていた業績計画の達成が、無理であることはもはや自明である。自分は良いけれども、自分の部下である経営チームメンバーにインセンティブが出ないとなると、モチベーションは下がるし、退社して他社に行ってしまうのをとても抑えられない。そうなっては、事業に甚大な影響が出かねない」というものである。   買い手としては、まず経営トップの言っていることが本当なのか詮議し、本当ならばなぜそのような事態になったのか、責任を厳しく問いたいところである。また、実際に業績目標を下げるとなると、こちらの株主にも説明が必要であり、そう簡単に応諾はできない。さらに、そもそも低い業績しか達成しないのに、当初想定通りの高額インセンティブが払い出されるようにして欲しい、と要求しているように聞こえるので、「そんな虫のよい話など、世界のどこにもないぞ」と一喝したくなる。   しかし、経営トップの言うとおり、業績の大幅悪化を避けるすべがなく、幹部の退社リスクが本当ならば、これは、買収先の価値が大きく毀損されかねない、看過できない事態である。「あなたやあなたの部下が辞めることについては、まことに残念ではあるが了解した。それではGood Luck!」と言える買い手なら良い。しかし、まだその段階に至っていなければ、折り合って現況を凌ぐ方法を考えなければならない。   経営者の場合、思ったような業績に仕上げることができずに今年のSTIが貰えない、ということは誰にでもありうる話だし、もしうまくいかなくても、仕方がない、と自分の腹に収められることである。筆者の米国の同僚である専門家によれば、業績目標は達成確率50-60%のところに置く(Challenging but Achievable)のが通常である(本連載第92回「買収先経営者の業績目標設定」参照)。   しかし、「3年先のLTIが今からまず貰えそうもない」となると、

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