[マールインタビュー]

2015年3月号 245号

(2015/02/15)

No.175 法と経済学も理解しながら日本型経営の水先案内人として企業の信頼を得る

 中村 直人(中村・角田・松本法律事務所 弁護士)
  • A,B,EXコース

中村 直人(中村・角田・松本法律事務所 弁護士)

目次

[1]会社法改正 ― グループ法制を中心に

子会社管理責任の強化


-- 会社法の改正で、グループ経営のあり方に関連する規定はどう変わりましたか。

「日本でもグループ経営が増え、子会社の管理をどうするかが大きな問題になっています。上場企業グループでは、発生する不祥事の9割ほどは子会社や関連会社で起きています。株主が親会社の取締役の責任を追及しようとしても、裁判例は、親会社取締役には子会社を監督する責任は原則として存在しないと言ってきました。これに対して、学者の方々はそれはおかしい、親会社取締役は子会社をしっかり管理・監督する責任や義務があると主張してきたのです。それで、今回の会社法改正に当たり、学者や法務省は、親会社取締役の管理責任(監督義務)の規定を設けようとしたのですが、経済界の反対に合い、実現しませんでした。それに代わって、限定的な多重代表訴訟の創設とグループ内部統制を定める会社法施行規則(省令)を会社法(法律)本体に規定することになったのです」

-- グループ内部統制の定めが会社法本体に格上げされたことで、何が変わるのですか。

「法務省は省令をそのまま法律にもってくるだけで、何も変わることはないと説明しています。しかし、これは二つの点で正しくありません。一つは省令と法律では、全く重みが違います。省令は法律から委任された技術的なことしか定められません。法律で定めていないのに、規則で新しい義務を定めることはできないのです。ですから、グループ内部統制を定めた会社法施行規則(100条1項5号)を根拠に、親会社取締役に子会社管理責任があると解釈することはできなかったのです。しかし、今回の改正で、この条文が法律に格上げされたので、条文の解釈として、『企業集団における業務の適正を確保するための体制』には子会社管理責任が含まれるという説が十分に成り立つこととなりました」

-- もう一つ、正しくない点は何ですか。

「これは、すごく巧妙なことをやったのです。これまで規則100条1項5号にはこう書かれていました。『当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制』とあり、親会社の文言が入っていました。しかし、この条文が格上げされた会社法362条4項6号をみると、『親会社』の文言がすっぽり抜かれています」

-- どういう意味があるのですか。

「これにより、親会社取締役に子会社管理責任があると解釈できるようになります。これまでは、親会社の文言が入っていたので、グループ内部統制の内容には会社の管理は含まれないとされてきたのです。子会社に対しては管理することはあり得ても、親会社を管理することはあり得ないからです。それで、法務省もグループ内部統制の内容は、たとえば子会社が持っている個人情報を親会社に提供するときに、個人情報保護法に違反しないようにするなどグループ会社間で違法行為が起きないようにするための体制を整備することだと説明してきたのです。しかし、今回、『親会社』の言葉が消え、『当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正の確保するため……』となったので、グループ内部統制に子会社の管理が含まれると解釈することができるようになったのです」

-- グループ管理が厳しくなること(規制強化)に経済界側は反対しなかったのですか。

「法務省側が『法律に格上げしても変わりません。今までと同じです』と説明していたので、それで経済界側もそうかということで了承してしまった。ところがふたを開けてみたら、思わぬ棘が刺さっていたという感じです」

-- 経済界側で改正に関与された方が今回の改正を解説した本を読むと、会社法に格上げされた点は説明されていますが、親会社が抜けた点については言及されていません。

「経済界側が触れたくない気持ちはよく分かります。それに配慮してか、法務省や会社法制部会長だった岩原紳作教授は、その後も、条文の文言が違うことは大きな意味は持たないと説明しています。でも、こうなってしまったら、もう抵抗できません。今後、裁判になったら子会社管理責任は認められると思います。管理責任の規定は正面からは導入されませんでしたが、グループ内部統制の規定の解釈から親会社の取締役の子会社管理責任は格段に厳しくなったと言えます」

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