[M&A戦略と会計・税務・財務]

2013年6月号 224号

(2013/05/15)

第72回 英国における知的財産投資促進税制の概要

 高木 陽一(税理士法人プライスウォーターハウスクーパース マネージャー)
  • A,B,EXコース

   英国政府は、知的財産の開発及び活用の向上は英国経済の活性化にとって重要な課題であると考え、知的財産に関連した英国への投資促進を目的とした優遇税制を導入している。

   英国の2012、2013年度の税制改正案には、技術革新による価値創造の始点である知的財産の研究開発費用に関する優遇税制(R&D租税負担軽減措置)、及び終点である知的財産の活用により稼得する収益に関する優遇税制(パテントボックス税制)が盛り込まれてきた。以下、英国における知的財産投資を促進すると考えられる知的財産に関する英国優遇税制の概要をパテントボックス税制を中心に解説する。

1.英国のパテントボックス税制

1.1. 英国パテントボックス税制導入の背景


   英国政府は、2010年11月29日に発表した法人税に関する指針(Corporate Tax Road Map)の中で、競争力のある英国の税制を確立するために今後どのように企業と協力していくかを記しているが、本指針の第2B章では、パテントボックス税制の提案を含め、法人税制における知的財産の役割について述べている(注1)。

  第2B章1.4項では、英国への革新的な事業投資を促進させることは、民間セクターの強力な成長を促すことになるとし、特許から生じる所得に関する優遇規定としてパテントボックス税制導入の意向を明らかにしている。また、パテントボックス税制は、企業が特許権の開発、製造及び利用に関連した高付加価値な業務を英国国内に設置するように促し、さらには特許からの所得が多いハイテク企業に適用される英国税制について、他国との競争力を高めることができると記している。

   2011年6月11日に公表されたパテントボックスに関する諮問文書第1.8項の中で、英国政府は、特許権に重点を置く理由として、特許権がハイテクの研究開発及び製造活動と特に深く結びついていること、他の諸国では、特許所得に関する特則がすでに導入されており、これらが英国税制の競争力の低下の一因となって、企業の海外移転が促進される懸念があることを述べている。

  2012年3月29日にパテントボックス税制を含む2012年財政法案(Finance Bill 2012)が公表され、また同日付で、英国歳入関税庁は、パテントボックス税制の適用に関する指針を発表した。

  予算責任局(the Office for Budget Responsibility)は、2012年予算報告書(Budget report)の第2章の中で、予算編成方針を取り込んだ国家財政と経済に関する独自の見通しを発表している。また本章で、予算編成方針を策定するにあたり、経済や国家財政予測に影響を与える予算編成方針から生じる収益及び直接コストについての政府評価の認証、及び予算政策が経済に与える間接的な影響を査定している。

   本章の2.2表では、2012年4月あるいはそれ以降に発効となる歳出計画を含む2011年経済白書の発行日以前に発表された財政的影響を与えるあらゆる政策から生じる収益及び費用が示されているが、本表によると、パテントボックス税制の導入による影響額は、2013年-2014年は3億5000万ポンド、2014年-2015年は7億2000万ポンド、2015年-2016年は8億2000万ポンド、2016年-2017年は9億1000万ポンドと試算されている。
 

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