[視点]

2021年6月号 320号

(2021/05/19)

改訂コードがもたらす親会社による情報開示の充実

林 謙太郎(株式会社東京証券取引所 上場部長)
  • A,B,EXコース
はじめに

 東京証券取引所(以下「東証」)では、金融庁と共同して運営する「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下「フォローアップ会議」)における議論を踏まえて本年4月6日にとりまとめられた意見書に基づき、現在、コーポレートガバナンス・コード(以下「コード」)の改訂の手続きを進めている。
 今般の改訂の主要な3つの論点として耳目を集めているのが、「取締役会の機能発揮」、「企業の中核人材の多様性の確保」及び「サステナビリティを巡る課題への取組み」である。これらはいずれも、我が国の上場会社が持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現する観点から、各社共通の重要性を有する課題であるが、これらと同等、あるいはそれ以上に上場会社の実務に大きな影響を及ぼす可能性のある事項として、今般の改訂で追加された「支配株主を有する上場会社のガバナンス」に関する原則に注目したい。

支配株主を有する上場会社に適用される新たな原則の背景

 改訂前のCGコードにおいても、株主の平等な取扱いの観点から、支配株主を含む関連当事者との取引について、「そうした取引が会社や株主共同の利益を害すること」や「そうした懸念を惹起すること」がないよう、適切に取締役会が監視することが求められてきた(原則1-7)。もっとも、2019年6月に経済産業省が策定した「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」が指摘するように、支配株主を有する上場会社においては、議決権を背景として支配株主が上場会社に対して強い影響力を行使し、その結果として会社及び株主共同の利益が損なわれる構造的な利益相反リスクが存在するため、既存の原則1-7の趣旨の達成は容易ではない。
 流通市場において株式を取得する投資者(少数株主)は、このような構造的な利益相反リスクが適切にコントロールされることを強く望んでいる。少数株主の正当な利益が適切に保護されない懸念のある流通市場では、投資者は安心して中長期の投資を行うことができない。流通市場が安心して投資できる環境を提供できないとしたならば、投資者による中長期の資金供給が減衰し、上場会社の資金調達や支配株主による株式の売出しの円滑かつ適切な実施にも支障をきたすこととなろう。したがって、広く公開された流通市場においては、適切に少数株主の保護が図られる枠組みの整備が極めて重要となる。

基本原則4「考え方」の改訂

 改訂コードでは、

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