[【法務】ESGの新潮流とM&A(大江橋法律事務所)]

(2022/07/25)

【第2回】 サステナビリティ情報開示のポイントと求められる実務対応

澤井 俊之(大江橋法律事務所 弁護士)
  • 無料会員
  • A,B,C,EXコース
<目次>
  1. M&Aとサステナビリティ情報開示
  2. サステナビリティ情報開示の特徴
    1. 非財務情報とマテリアリティ
    2. 中長期的な視野と不確実な未来への対応
    3. 開示媒体・開示基準の選択
  1. 国内外の政策の最新動向
    1. 国際的な動向
    2. 国内の動向
  2. 実務対応の概要
    1. 開示基準について
    2. 一般的なサステナビリティ情報の開示に向けたプロセス
I M&Aとサステナビリティ情報開示

 ESG(環境・社会・ガバナンス)要素が、財務的な影響を与え得る重要な経営課題であるとの認識の高まりを受け、機関投資家がESG要素を投資判断に組み込むことが一般化しつつある。このような状況において、企業のサステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)に関する情報開示が、投資家との建設的な対話の基盤として必要不可欠であることは、近時広く認識されている。これに加え、サステナビリティに関する情報開示は、企業がサステナビリティの観点も踏まえた事業ポートフォリオマネジメントやM&Aを効果的に行うためにも重要である。

 すなわち、経営環境が急激に変化する中、企業が持続的な成長を実現していくためには、事業ポートフォリオの見直しとこれに応じた事業再編を行い、経営資源を適切に再配分することが急務であるといわれている。この事業ポートフォリオマネジメントを適切に行うためには、自社の事業ポートフォリオの評価を行うにあたり、資本収益性と成長性を軸に、できる限り定量的な事業評価を行うとともに、企業理念や価値基準に加えサステナビリティの観点をも考慮すべきであるとされている(注1)。サステナビリティが事業の資本収益性や成長性に与える影響は今後ますます大きくなると考えられることからすれば、企業がサステナビリティの観点から自社事業の抱えるリスクと強みを見極め、例えば、温暖化ガス(GHG)排出量の多い事業を売却したり、脱炭素技術を駆使して競争優位を発揮できる事業に積極的に参入したりといった、ESGの推進を狙ったM&Aや事業売却が今後増加してくると思われる(注2)。

 このような観点から事業ポートフォリオを見直すに当たっては、その評価の前提として自社のサステナビリティ戦略の軸を明確にするとともに、資本市場において、その戦略が自社の中長期的な企業価値の向上に資するものであるとの評価につなげることが重要である。そのためには、平時から、自社のサステナビリティに関する取組状況を適切に開示することが必要となる。また、事業を売却する際も、M&Aに際してESGの観点からのデューデリジェンスが行われつつある状況を踏まえると、ESGに関するリスクと収益機会をなるべく定量化し、客観的に説明できる状態にしておくことにより、適正な価格や条件による売却につなげることができると考えられる。

 このように、サステナビリティへの取組や情報開示への対応は、事業戦略の検討からM&Aの実施に至る文脈でも重要性を増している。そこで本稿では、企業がサステナビリティへの取組や情報開示のあり方を検討するにあたり、財務情報の開示とは異なるサステナビリティ情報開示の特徴を明らかにし(II)、情報開示の政策に関する国内外の最新動向を概説した上で(III)、これらを踏まえた実務対応の概要について解説する(IV)。


大江橋法律事務所

■筆者略歴
澤井 俊之(さわい・としゆき)
大江橋法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士
2008年京都大学大学院修了、2017年University of Michigan Law School LL.M.修了。2018年から2020年にかけて金融庁企画市場局市場課勤務(専門官)。取扱分野は、M&A、金融・証券規制、フィンテック等。主な著書として、「個人投資家へのESG投資の推奨と顧客本位の業務運営」(金融法務事情、2021年) 、「ESGに関するコーポレートガバナンス・コードの原則と実務対応」(BUSINESS LAWYERS、2021年)等

続きをご覧いただくにはログインして下さい

この記事は、無料会員も含め、全コースでお読みいただけます。

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事