[M&A戦略と会計・税務・財務]

2024年10月号 360号

(2024/09/10)

第205回 クロスボーダー現物出資における税制適格要件の見直し

荒井 優美子(PwC税理士法人 タックス・ディレクター)
  • A,B,C,EXコース
1. はじめに

 クロスボーダー現物出資は、①内国法人である日本企業が、事業や保有資産等を日本国外に現物出資することによる、子会社の設立や現地の企業とのJV(ジョイントベンチャー)を行う場合と、②外国法人が事業や保有資産等を日本国内に現物出資することによる、子会社の設立や日本企業とのJV(ジョイントベンチャー)を行う場合が考えられる。法人税法上、一定の要件を満たすグループ内又はグループ外企業への現物出資は、税制適格現物出資(以下、「適格現物出資」)として、移転資産等の含み損益の課税が繰り延べられる。

 クロスボーダー現物出資では、対象資産又は負債について、日本国内の資産又は負債(以下、「国内資産等」)の国外への現物出資は日本の課税権が失われることから税制非適格とされ、国外の資産又は負債(以下、「国外資産等」)の国内への現物出資は移転資産等の含み損が持ち込まれ、租税回避に利用される懸念から税制非適格とされている。

 従って、日本企業の海外支店が保有する国外資産等の国外への現物出資については、令和6年度税制改正前までは税制適格とされてきたが、令和6年度税制改正により無形資産等についての取扱い、及び「国内資産等」と「国外資産等」の区分となる資産の所在地の内外判定が見直された。改正は2024年10月1日以後に行われる現物出資より適用となる。本稿では改正の概要と実務上の留意事項について解説を行う。

2. 改正の概要と改正趣旨

 改正前は、以下の現物出資は適格現物出資に該当しないとされていた。

①外国法人に国内資産等の移転を行う現物出資(図表1参照)

 国内資産等とは、国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利、鉱業法の規定による鉱業権及び採石法の規定による採石権その他国内にある事業所に属する資産(外国法人の25%超の株式・出資を除く)又は負債をいう。



■筆者プロフィール■

荒井 優美子荒井 優美子(あらい・ゆみこ)公認会計士/税理士
コンサルティング会社、監査法人勤務後、米国留学を経てクーパース&ライブランド(現PwC税理士法人)に入所し現在に至る。クロスボーダーの投資案件、組織再編等の分野で税務コンサルティングに従事。2011年よりノレッジセンター業務を行う。日本公認会計士協会 租税調査会(出版部会)、法人税部会委員。一橋大学法学部卒業、コロンビア大学国際公共政策大学院卒業(MIA)、ニューヨーク大学ロースクール卒業(LLM)。

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