[書評]

2006年1月号 135号

(2005/12/15)

BOOK『破産する未来』

ローレンス・J・コトリコフ、スコット・バーンズ著 日本経済新聞社 2500円(本体)

破産する未来

 「少子高齢化と米国経済」と副題にある。米国のベビーブーム世代が間もなく現役を退く。老齢年金と公的医療保険が政府から支給されるようになる。政府が約束した公的債務である。老人が増え、働く若者が少なくなるからこの債務は巨額になっていく。しかし、この潜在的債務が一体どの位になるのか国民の前に明らかにされていない。
 予算教書を作成するため財務省が調査をしたことがあるが、余りの巨額さに驚いて封印してしまったという。その資料をもとに著者が試算したところでは、51兆ドルにもなる。米国の公的債務はこれまで4兆ドル余りとされてきたが、実は、その10倍以上の債務が隠されているというのだ。
 米国は財政的に破産しているのに、米国の引退世代の間には、「十分責任を果たした。後は大いにお金を使って楽しい人生をまっとうしよう」という価値観が広がっている。病気になっても、自分の希望する医者に無料で診てもらえ、高額の医療費は、請求書を政府に回せばすむ。このツケは、結局、将来世代に回る。現世代の生涯税率を20%とすれば、将来世代のそれはその何倍にもなる。我々は将来世代を搾取しているのである。
 このような世代間の不公平をなくすため、これまで世代倫理が説かれてきたが、著者は、経済学者の立場から、潜在的債務の額、ひいては将来世代の負担が分かる「世代会計」の考え方を以前から提唱していた。しかし、将来世代への責任の自覚はなかなか普及しない。その理由は一国のリーダーである政治家が次の世代のことよりも次の選挙のことを優先するからである。将来世代は投票権もなく、声も出せない。「代表なくして課税なし」の原則に反し、一方的に将来の重税を押し付けられるのである。
 この問題は地球の温暖化の問題とも共通している。現代世代が文明生活を享受するため吐き出すCO2が地球の気候の仕組みを壊し、海面の上昇や異常気象をもたらす。すでに台風の巨大化などで兆候は出ているが、将来世代の被害はもっとすさまじいものになる。
 本書に米国原住民のイロコイ族の掟が紹介されている。物事を決める際には「次ぎの七世代に与える影響を考えなければならない」。人間にはこのような文化もあったかと驚く。
 翻って日本の状況を考える。高齢化や財政赤字は米国以上に深刻である。国と地方を合わせた長期債務の額が774兆円という数字にも圧倒されるが、潜在的債務の議論は置き去りにされている。最近になって年金の財源不足額が480兆円といった試算が政府から公表されたが、経済学者の野口悠紀雄氏は、800兆円にのぼるという試算を示している。本書は米国国民に衝撃を与えたそうだが、日本においてこそ、このようは本が書かれるべきだと思う。子供たちへのツケで花見酒を楽しむのは終わりにしたい。(青)

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