1. はじめに
グローバルに製造業を展開する日本企業にとって、国外への新規投資および国外からの既存事業の撤退は、常に切り離せない経営の重要なテーマである。昨今、時代の変化も伴い、過去にも増して、日本国外における事業撤退の迅速な判断は、多くの日本企業にとって、その経営に大きな影響を与えているように感じられる。経営の選択と集中という言葉が長らく使われてきた中、ノンコア・不採算事業の切り離しは常に行われており、日本企業による事業ポートフォリオの再編は絶え間なく進んでいる。特定の業界や事業の規模に関わらず、事業の撤退を示唆する、事業の外部第三者への譲渡の記事は、ニュースや新聞にて常に目にするものである。
しかしながら、国外製造事業の撤退ないしは外部売却を実現するには、大変な労力を要するため、円滑な対処が求められるとともに、何より、以降の経営に負の遺産を残さないことが重要である。特に、M&Aによる国外事業の売却を検討する場合、実務的にも多くの留意すべきポイントが存在している。本稿では、常に行われつつも、時代の流れの中で気付かされる新たな変化を意識しながら事業撤退に焦点を当て、ポイントを整理していく。
2. 撤退のプランニング
(1) 取り組みの始点
製造および販売を主業とする事業は、常に市場の変化および競争にさらされている。競争力ある高品質な製品の出現、事業や製品の低コスト化、さらに代替品への移行による需要の低減など、どのような事業であっても、これら経営環境の変化を敏感に意識しながら、事業運営の舵取りを行っていかなければならない(図表1)。多くの事業において事業撤退の検討がなされることはあっても、その実行の判断は極めて難しいものであることは言うまでもない。
■筆者プロフィール■

荒木 毅(あらき・つよし)
デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員/パートナー
M&Aユニット
国内およびクロスボーダーのM&Aコンサルティング業務に従事。幅広い業界や事業に対して多くのクロスボーダーM&A戦略立案、ディール組成、実行支援の多くの経験を有する。

成田 遼平(なりた・りょうへい)
デロイト トーマツ コンサルティング
M&Aユニット マネジャー
大手通信会社を経て現職。戦略立案策定、新規事業開発、国内及びクロスボーダーM&A実行支援、等の経験を有する。

朴 賢斌(ぱく・ひょんびん)
デロイト トーマツ コンサルティング
M&Aユニット シニアコンサルタント
新卒でデロイト トーマツ コンサルティング入社、M&Aユニットに所属。ターンアラウンド戦略策定、国内及びクロスボーダーM&A実行支援、等の経験を有する。

孫 彦彬(そん・やんびん)
デロイト トーマツ コンサルティング
M&Aユニット コンサルタント
新卒でデロイト トーマツ コンサルティング入社、M&Aユニットに所属。日米中の言語を駆使し、クロスボーダーにおけるM&A戦略を中心に幅広いコンサルティング業務に従事する。