1. はじめに (注1)
本稿は、事業性融資の推進等に関する法律(通称:事業性融資推進法)(以下単に「法」と記すことがある。)に基づく
企業価値担保権の概要を説明した上で、担保設定方法を中心に
LBOファイナンスにおける利用可能性をhigh-levelで検討し、最後に企業価値担保権の利用に適したLBO案件等について個人的な予想を交えつつ現時点の私見を述べる。
2. 企業価値担保権の概要 (注2)
企業価値担保権は事業性融資推進法に基づく担保権であり、不動産担保や経営者保証に過度に依存しない企業の事業性に着目した融資を後押しする制度として導入された(令和8年・2026年12月13日までに施行予定)。企業価値担保権の特徴の1つは、借入人の個別資産の価値ではなくその事業価値全体(含・
のれん)を目的とする点にある。企業価値担保権で重要なのは個別資産の価値ではなく事業価値全体であることから、借入人は、通常の事業の範囲内であれば企業価値担保権者の承諾を得ることなく担保対象資産を使用、収益及び処分できる(法第20条)。
企業価値担保権者は、自らが有する企業価値担保権と被担保債権を同じくする担保権(「重複担保権」)の設定を別途受けることはできるものの、重複担保権の実行は禁止される(法第11条)。これを許容すると、個別資産の担保価値よりも事業価値全体に重きを置いた法の趣旨に反するためである。これに対し、企業価値担保権者以外の債権者が強制執行を行うことや企業価値担保権以外の担保権の設定を受けることは妨げられない。一方、企業価値担保権者は、これらの債権者・担保権者による強制執行や担保権実行が開始された場合でも手続への参加等は原則として認められない(法第7条第3項、第19条)。これも、「個別資産の担保価値の総和 < 事業価値全体」を目指す法の趣旨のコロラリーと言えよう。このように、企業価値担保権の防御的機能には限界がある。
企業価値担保権ではセキュリティトラスト(担保権信託)が採用されている(法第8条ほか)。具体的には、
■筆者プロフィール■

鈴木 健太郎(すずき・けんたろう)
2000年慶大法卒。01年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。長島・大野・常松法律事務所入所後、経済産業省経済産業政策局産業組織課(任期付公務員)、独立行政法人経済産業研究所(RIETI)の「インセンティブ構造としての『企業法』」研究会委員などを経て、14年に柴田・鈴木・中田法律事務所開設、同パートナー。金融機関等によるLBOファイナンス(シニア、メザニン)、PEスポンサー・事業会社によるM&Aのアドバイザーを務める。