[書評]

2009年11月号 181号

(2009/10/15)

BOOK『企業結合法制の理論』

中東正文著 信山社 8800円(本体)

企業結合法制の理論この10年余りで日本のM&A関連法制は目まぐるしく変化し、発展した。1997年の合併法制の改革、純粋持株会社の解禁から始まり、株式交換・移転制度や会社分割制度導入を経て、対価の柔軟化を認めた2005年の会社法制定はその到達点である。一言でいえば規制緩和の歴史である。著者は、事前規制から事後規制への転換の理念が妥当だったとしても、劇的な変化を日本社会が容易に受け止めることができるかは、今なお課題だとする。激動の10年にわたり、著者が発表し続けてきた論文を集大成したのが本書である。

著者は企業結合を資産融合型と株式取得型に分類する。前者は合併や営業譲渡で外国に見劣りしないが、後者は公開買付けのほかには法整備がなかった。株式交換・移転制度は、持株会社の形成を設立を容易にするものだが、株式取得型の企業結合に大きく役立った。

株式交換の核心は多数決で強制的に株式を収容することにある。公開買付けではできない対象会社の株式の百%取得が可能になる。対価の柔軟化でさらに多数決による収容の手法が広がった。少数株主の締め出しも可能になった。さらに会社法は全部取得条項付種類株式を利用した締め出しも認める。株式投資は所詮、最後はカネの問題と割り切れば、価格の公正さが保たれる限り、売却を強制されてもよいという立論も可能になる。会社法が少数株主の締め出しを広く認めたのはこの考えで再構築した結果である。しかし、著者は、上場会社の株式投資では投資家個々人の株式評価が尊重されることが資本市場維持の前提条件であり、少数株主の排除は無制限に許されるべきではないと主張する。「株式会社は手切金でカタをつけるほかない身分関係とはちがう」といった先学の言葉も紹介している。

会社法は、事前規制から事後救済の流れの中で、株式買取請求権の買取価格を、シナジーを含んだ「公正な価格」にしたことで少数株主の保護は図れるとした。MBOの普及などもあり、買取請求権の行使をめぐって紛争が増えている。しかし、裁判所にとって公正な価格の決定の難しさや、訴訟活動をする反対株主の負担が大きいことも明らかになるなど十分な救済策になっていない。少数株主締め出しを悪用すれば、買収者がシナジーを独占し、また支配株主が都合のよいときに会社の将来の価値を独占することも可能になる。

企業結合の形成が容易になる流れの中、企業結合法制の整備が後回しにされた。著者は以前から、少数株主の締め出しについて、事前規制の必要性を訴えていたが、やはり根本的には立法による事前規制の設定を再検討すべきだとしている。少数株主の多数の賛成などを要件に、株式併合を含む横断的な締め出しの基準をもつカナダ法が参考になるという。

敵対的買収と防衛策についても書かれている。米国型を推進してきた日本の関係者も、最近、英国型の関心に強めているが、著者は以前から英国型を支持している。本書を読むと、早くも1980年代に学者が米英の違いを検討し、今後、わが国では英国型を探求すべき、とした論文が紹介されている。温故知新というが、企業結合をめぐる論議でも、日本の研究者の蓄積があることが、多彩な論文の紹介を通じて分かる。本書は昨年11月に刊行された。論文集のため重複感はあるが、時代ごとの議論状況、日本のM&A法制の変遷がよく理解できる。今年、同じ著者の『企業結合法制の実践』が刊行されている。(青)

 

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