第1 はじめに 2025年4月14日、株式会社東京証券取引所(以下「東証」という)は、有価証券上場規程で制定されている企業行動規範の見直し案として、「
MBOや支配株主による完全子会社化に関する上場制度の見直し等について」と題する資料(以下「本見直し案」という)を公表した。
昨今、上場企業において資本コストや株価を意識した経営が求められる中、件数・規模ともに高水準で推移している
MBO(マネジメント・バイアウト)や支配株主等による
完全子会社化の取引(以下「MBO等取引」という)は、買付者・一般株主間の利益相反や情報の非対称性といった構造的問題を内在しているところ、2019年6月、経済産業省によって「
公正なM&Aの在り方に関する指針」(以下「公正M&A指針」という)が公表されて以降、MBO等取引における
公正性担保措置やその実施状況の開示は、実務のプラクティスとしても一定程度浸透してきているといえる。他方で、東証の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」(以下「本会議」という)によると、投資家からは、買付価格や手続の公正性に関する懸念が依然として示されており、これを受けて本見直し案は、公正M&A指針における公正性確保の枠組みを一層実効的に機能させるため、企業行動規範の遵守すべき事項について所要の見直しを行うものとされている。
本稿では、本見直し案の概要を解説し、本見直し案の実施に伴って生じ得る実務への影響についても検討を試みたい。
なお、本稿の脱稿時点における情報によれば、2025年5月14日まで本見直し案のパブリックコメント手続が行われ、その結果を踏まえて、同年7月を目途に企業行動規範の見直しが実施される予定とされている。本稿は、あくまでも本見直し案に関する解説を行うものであり、本見直し案と実際に実施される企業行動規範の見直しとは内容が異なる可能性がある点はご容赦いただきたい(注1)。
第2 本見直し案の概要と実務上想定される影響 本見直し案は、大別すると、
■筆者プロフィール■

森 卓也(もり・たくや)
TMI総合法律事務所パートナー弁護士。2014年12月弁護士登録。2019年10月~金融庁企画市場局企業開示課勤務。2022年5月TMI総合法律事務所に復帰。
M&A、コーポレートガバナンス、アライアンス(資本提携)、株主総会対応等をはじめ企業法務全般に幅広く経験を有する。M&Aでは特にTOB(公開買付け)案件を多く取り扱っている。

山田 智子(やまだ・ともこ)
TMI総合法律事務所アソシエイト弁護士。2022年4月弁護士登録。TOB(公開買付け)案件を含むM&A、ベンチャーファイナンスを中心として、クロスボーダーを含めた企業法務に関する多様な案件を取り扱っている。

三島 滉太朗(みしま・こうたろう)
TMI総合法律事務所アソシエイト弁護士。2023年12月弁護士登録。M&A(TOB案件を含む)、コーポレートガバナンス、アクティビスト対応等のコーポレート案件を中心として、企業法務全般に幅広く対応経験を有する。