総論編では、人事部門をクロスボーダーM&Aに早期参画させるべき理由として、カルチャー施策の推進、ディール推進上のリスクヘッジ、PMIの推進を挙げました。各論編では、人事部門がディールの初期段階に行うべきこと、および、サイニング以降クロージングまでの間の対応について、具体例を交えつつ紹介していきます。
1.ディール初期のアプローチ
ディール初期には対象会社の選定というプロセスもありますが、私自身は残念ながらこのプロセスに参画した機会はまだありません。役割上コーポレート機能の人事部門がM&Aに参画するのは、各事業部門から支援依頼を受けた後のケースが多いからです。あるべき姿から言えば、人事部門も対象会社選定の時点から参画するのが理想かと思います。人事部門が経営の一角として、人や組織の視点から不足感のある人材カテゴリーや員数を把握し、例えばデジタル人材の確保を買収により達成するべく対象会社の選定に参画するといったことができれば、より経営に貢献できる機会になると思います。
いずれにしても、できるだけ早期の参画が望ましいという前提で、ディール初期にどのようにアプローチしていくべきかを説明します。
(1)マネジメントプレゼンテーション、デュー・ディリジェンス、エキスパートセッションへの対応
① 仮説の構築と検証
私が事業部門からの相談を受けて参画する場合、まず全体感の理解とイメージ作りを行います。具体的には、
■ 筆者履歴

中田 真也(なかた・しんや)
1988年 株式会社日立製作所入社。研究開発部門、情報通信事業部門、原子力事業部門、コーポレート部門(本社)にて一貫して人事・勤労業務に従事。情報通信事業部門では国際人事グループを立ち上げ、以降グローバル人事領域にて様々な業務に従事し、2010年日立ヨーロッパ出向、2017年より現職である本社人財統括本部グローバル戦略アライアンス部部長。グループ内クロスボーダーM&Aを人事部門の側面で推進・支援を多数経験。ABBパワーグリッド事業、GlobalLogic、Thales GTS等大型買収案件にハンズオンやアドバイザリー等様々な形で参画。2023年より同グローバルトータルリワード部長も兼任。