東芝は日本の民間企業の中でも特に有名であり、かつ、これまでコーポレート・ガバナンスを重視してきたことから、東芝を巡る一連の経緯は衝撃的だった。東芝事件から、コーポレート・ガバナンスに関する次の4つの教訓が得られる。(1)コーポレート・ガバナンスの失敗から免れる企業はない。(2)コーポレート・ガバナンスにおいては形式よりも機能が重大である。(3)日本の経営陣はもはや、
アクティビストを無視することはできない。(4)日本でコングロマリットの時代は終わった。上記の教訓はすべて現在日本にも影響を及ぼしている世界的な傾向を反映しているといえよう。
I. 序章
東芝事件は、おそらく日本史上最悪の企業統治に関するスキャンダルであろう。東芝は日本の事業者の象徴だったので、まったく予想外であった。さらに、東芝は、執行役制度の早期導入や、委員会を設置する「アメリカ式」の会社の構造など、そのコーポレート・ガバナンスで知られており、それを誇りに思っていた。それにもかかわらず、2015年に、東芝が7年の間3代の社長を経て、複数の部門にまたがり、経営陣の関与の下、利益を水増ししていたことが明らかになった。これにより、同社は破産寸前になり、重要な資産の売却と外国のアクティビスト・ファンドへの株式の発行を余儀なくされた。
さまざまな改革が行われたが、一連の問題が続いたことからすると、これらはほとんど効果がなかったようである。事態は2023年末、投資ファンドに買収されることで打開された。東芝自身の言葉を借りれば、これらの不祥事は、「東芝の評判を傷つけ、創業以来最大の危機に陥らせた(注1)」。
■筆者プロフィール■

Bruce Aronson(ブルース・アロンソン)
ボストン大学卒業及びハーバード大学ロー・スクール修了。ニューヨーク法律事務所のパートナーを経て米国のクレイトン大学ロー・スクールの教授。東京大学上級フルブライト研究員・客員准教授、日本銀行金融研究所研究員、早稲田大学上級フルブライト研究員などを経験。2013年~2018年一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。2017年~2022年エーザイ株式会社社外取締役。2018年よりニューヨーク大学ロー・スクールの非常勤教授及びUS-アジア法研究所のシニア・アドバイザー。専門は、コーポレート・ガバナンスの比較研究。主著に、『Corporate Governance in Asia: A Comparative Approach』(編著、2019年、Cambridge University Press)などがある。