[寄稿]

2022年2月号 328号

(2021/12/24)

日本におけるPEファンドの役割と可能性~アイデアとコミットメントのあるファイナンスへの期待~

鷲見 和昭(日本銀行 調査統計局 経済統計課 企業統計グループ 企画役)
  • A,B,EXコース
※本寄稿は、M&A専門誌マール 2022年2月号 通巻328号(2022/1/18発売予定)掲載記事です。

はじめに

 日本企業は1990年代後半から負債の圧縮を進めることで、自己資本比率を高めてきた。この背景には、1990年代初にバブル経済が崩壊し、90年代半ばには生産年齢人口、2010年頃には総人口が減少に転じる中で、内需の伸び悩みが意識され、企業マインドが慎重化したことが指摘できる。

 また、日本では、経営者の高齢化が顕著になっている。こうした下で近年、親族内承継のみならず、社外等も含めた第三者による事業承継ニーズが高まっている。取り分け新型コロナウイルス感染症の影響により事業環境が厳しさを増す中、今後、企業の再編ニーズがさらに高まることが予想される。こうした中で、事業の成長性と持続性を高めようとすれば、改革は避けて通れない。今後進行する企業再編は、これまで先送りされてきた事業改革を実行するまたとない機会ともなるはずである。

 そのためには、事業改革を進められる経営者及び株主の登場が必要である。そうした機能を提供する主体の一つとして、プライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)がある。本稿では、PEファンドによる投資の現状と今後の課題の整理を試みる。なお、本稿は2020年12月に公表された調査論文を一部修正した上で、計数のアップデートを行っている。

日本企業を取り巻く環境変化

 これまでも、国内の人口減少、経済のグローバル化やデジタル化などの環境変化を踏まえ、事業改革を進めてきた企業は少なくない。例えば、内需の伸び悩みを受け、近年、製造業のみならず非製造業においても、海外直接投資が顕著に拡大しているなど、グローバル化へ適合している企業は増加している。こうした企業は、蓄積してきた自己資本をリスクの伴う海外事業展開に割り当てていると言える。しかし、このような企業は、全体からみればなお部分的である。より多くの企業が、グローバル化やデジタル化などの構造変化に適合すべく、事業改革を進めていく必要がある。

 自己資本が比較的厚い中でも、事業改革に慎重な企業が少なくない理由には、幾つかあるだろうが、バブル経済の崩壊とその後の人口減少が期待成長率を下げ、企業マインドを慎重化させたことが基本的な要因であろう。加えて、経営者が高齢化するもとで、過去の経験から危機に備える慎重な経営スタンスが続いてきた可能性がある。

 しかし、経験豊富な経営者もやがて引退せざるを得ない。一方、生産年齢人口が減少する中で、昔と同じだけの数の次世代経営者を見つけるのは容易ではない。実際に事業承継が大きな問題となっている。こうした点を踏まえると、事業承継がきっかけとなり、企業再編が広範に進行していく可能性が高い。コロナ危機後に経済の各方面で需要・供給構造の変化が予想されることも、企業再編に拍車をかける可能性がある。

 経済の構造変化が進む中で事業変革を推し進める上で、アイデアとコミットメントのある金融が重要な役割を果たすはずである。ここでのアイデアとは「どのように事業変革を進めていくべきかの知恵」を指し、コミットメントとは「そうしたアイデアを実現するための経営への関与とそれに見合った損失分担力の提供」を意味する。このような取り組みは、金融機関による事業支援や、官民共同ファンド、地域再生ファンドなど様々な主体の投資を通じても行われ得る。しかし、本稿では、資本市場を通じた経営規律を重視する観点から、PEファンドに焦点を当てている。

PEファンドによる投資と事業再編における役割



■筆者プロフィール■

鷲見和昭氏

鷲見 和昭(わしみ・かずあき)

2006年東京大学経済学部卒業、日本銀行入行。2011年ハーバード大学ケネディスクールにて行政学・国際開発学修士号(MPA/ID)を取得後、国際通貨基金(IMF)への出向、金融機構局、金融市場局等を経て、2021年6月から現職。これまで幅広い実体経済および金融市場に関する分析等を担当。この間、国際決済銀行(BIS)のグローバル金融システム委員会傘下の作業部会メンバー等を務める。

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