[【法務】カーブアウトM&A の実務と課題(柴田・鈴木・中田法律事務所 柴田堅太郎・中田裕人弁護士)]

(2020/01/30)

【第2回】 カーブアウトM&Aのストラクチャーの比較検討

柴田 堅太郎(柴田・鈴木・中田法律事務所 パートナー弁護士)
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 M&Aのストラクチャーは税務・会計面、法務面を中心として、総合的な観点から検討されるが、これはカーブアウトM&Aでも同様である。本稿では、法務の観点から、考えられるいくつかのストラクチャーについてメリット、デメリットの比較検討を行う。

1.事業譲渡と会社分割の比較

 カーブアウトM&Aにおけるストラクチャーとしては、まず事業譲渡を用いるか、会社分割を用いるかで大別される。

 事業譲渡は株式会社が事業を取引行為(特定承継)として他に譲渡する行為をいう(注1)。これに対して会社分割は、株式会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を、分割後他の会社又は分割により設立する会社に承継させることを目的とする会社の行為をいう(注2)。両取引類型の大きな違いは、事業譲渡では個別承継(特定承継)であり、承継対象となる契約関係の承継について相手方の承諾が原則として必要となるのに対して、会社分割では包括承継であり、かかる相手方の承諾が不要であることにある。このような大きな特徴を基本として、両取引類型には主として以下のようなメリット・デメリットがある(注3)。

(1)事業譲渡

①メリット
  • 組織再編に関する手続が不要であるため、迅速なクロージングが可能となる。
  • 承継対象となる従業員の範囲について、会社分割と比較してより柔軟な設定が可能となる。
  • 事業譲渡は事前開示手続が存在しないため、事業譲渡の対価や承継対象権利義務の範囲の詳細について債権者や株主に開示する必要がない。
①デメリット
  • 事業譲渡の実行について承継対象となる契約の相手方、負債の債権者及び従業員から個別に承諾を取得しなければならない(注4、5)。
  • 事業譲渡の対価を買主の株式とする場合には、別途現物出資の手続(原則として検査役による承継対象資産の価額の調査)が必要となるなど、事業譲渡対価の種類選択に限界がある。

(2)会社分割

①メリット
  • 会社分割の実行について承継対象となる契約の相手方、負債の債権者及び従業員から個別の承諾を必要としない。但し、従業員との雇用契約の承継について、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」(以下「労働契約承継法」という。)の手続を実施する必要がある。
  • 会社分割には分割対価の制限がないため、現金だけでなく、買主の株式など他の一定の種類の対価を設定することができる(吸収分割を想定)。

②デメリット
  • 組織再編手続、特に債権者保護手続の実施が必要となるため、公告枠の確保を含めるとクロージングまでに最低でも約1カ月半弱程度の期間を要し、迅速なクロージングが必要な取引には適さない。
  • 承継対象となる従業員の取扱いは、労働契約承継法に基づき、対象事業に主として従事しているか否かを基準として画される。すなわち、承継を意図した従業員が対象事業に主として従事していないため異議を述べられて承継対象とならない、又は承継を意図しない従業員が対象事業に主として従事していたために異議を述べられて承継対象となってしまう可能性がある。そのため、当事者の意図通りに承継対象従業員の範囲設定が実現できないことがある。
  • 会社分割の内容を含む事前開示書類を当事者の本店に備置しなければならないため、株主と債権者が会社分割の条件にアクセスできてしまう。

 当事者としては、以上のメリット・デメリットを踏まえて事業譲渡か会社分割のいずれを選択するかを決定することとなる。一般論としては、以下のような場合には事業譲渡が選択されることが多い。
    ① 迅速なクロージングが求められる場合
    ② 比較的取引規模が小さく、組織再編手続をすることが煩雑である場合
    ③ 承継対象契約又は承継対象従業員が少ないか、又は重要でない場合など、万が一相手方から承諾を取得できなくても影響が小さい場合
 これに対して、比較的規模が大きく、承継対象となる契約の相手方又は従業員から承諾を取得できないリスクが高い場合には会社分割が選択されることが多い。

2.会社分割を利用したストラクチャー

 会社分割を用いる場合でも、株式譲渡...

■筆者履歴

柴田 堅太郎(しばた けんたろう)
1998年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、2006年ノースウエスタン大学ロースクール卒業。2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)、2007年ニューヨーク州弁護士登録。長島・大野・常松法律事務所を経て、2014年2月に柴田・鈴木・中田法律事務所を開設、現在に至る。M&A、ベンチャーファイナンス、コーポレートガバナンス、企業の支配権獲得紛争などのコーポレート案件を主な取扱分野とする。


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