1.政権交代と経済政策
2024年8月30日、各府省庁から提出された令和7年度税制改正要望が公表された。令和7年度税制改正要望は、国内投資の持続的拡充(エンジェル税制の拡充、中小企業経営強化税制、地域未来投資促進税制等)、中小企業 の活性化、激動する国際課税制度への対応と企業のグローバル対応に向けた環境整備、エネルギーサプライチェーンの強靱化・GXの実現や産業競争力強化に向けた検討、の4項目を掲げており、中小企業のみならず大企業も対象とする政策税制は含まれていない。岸田総理の総裁選への不出馬表明(8月14日)を受け、経済政策の方向性が不透明であるため、核となる税制改正要望に至らなかったことが考えられる。
一方で、例年は9月中旬に日本経済団体連合会(以下、「経団連」)から公表される税制改正提言は、10月1日の石破内閣総理大臣(以下、「石破総理」)記者会見を受けて、10月3日に公表された。石破総理は過去に、防衛庁長官、防衛大臣、国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当を務めた経歴から、「日本を守る」防衛力の抜本強化と「地方を守る」「地方創生2.0」の取組を表明している。但し経済政策については岸田政権のデフレ脱却最優先の経済財政運営を引き継ぎ、コストカット型の経済から高付加価値創出型経済へと 転換し、投資大国日本を実現する目標を掲げている。
第214回国会における総理大臣所信表明演説(10月4日)では、経済政策については、①物価上昇を上回る賃金上昇の定着、②GX(グリーン・トランスフォーメーション)の取組の加速、③イノベーションとスタートアップ支援、④地方創生のため 「新しい地方経済・生活環境創生本部」の創設を掲げている。より具体的な経済政策は、10月中に策定が予定される総合経済対策で明確にされる。
■筆者プロフィール■
荒井 優美子(あらい・ゆみこ)公認会計士/税理士
コンサルティング会社、監査法人勤務後、米国留学を経てクーパース&ライブランド(現PwC税理士法人)に入所し現在に至る。クロスボーダーの投資案件、組織再編等の分野で税務コンサルティングに従事。2011年よりノレッジセンター業務を行う。日本公認会計士協会 租税調査会(出版部会)、法人税部会委員。一橋大学法学部卒業、コロンビア大学国際公共政策大学院卒業(MIA)、ニューヨーク大学ロースクール卒業(LLM)。