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[【企業変革】価値創造経営の原則と実践(マッキンゼー・アンド・カンパニー)]

(2021/03/31)

【第3回】取締役会はいかに価値創造に貢献するべきか

野崎 大輔(マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 パートナー)
柳沢 和正(マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 パートナー)
呉 文翔(マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 アソシエイト・パートナー)
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【取締役は企業価値向上の論理を理解するべきである】 

 2015年に施行されたコーポレートガバナンス・コードにおいて取締役会は、中長期的な企業価値向上のために企業戦略などの大きな方向性を示し、適切なリスクテイクの環境を整備し、実効性の高い監督を行うべきであるとしている [図1]。一方で、2020年に経済産業省によって実施されたコーポレートガバナンスの実態調査では社外取締役は、取締役会における事業ポートフォリオに関する議論について、「具体的な取組や成果につながっていない」、「十分な議論ができていない」、「議論が行われていない」等、約2/3がなんらかの問題意識を有していることが明らかになっている。取締役会を構成する取締役はその役割と責務を果たすために、企業価値とは何か、それを向上するためには何をするべきか、企業戦略とは何か、などを論理的な見地から理解しておくべきである。

[図1] 


 特に日本の上場会社の取締役の大半は業務執行を兼務する取締役である。取締役に選任される以前は研究開発や営業など特定の企業活動の業務執行に従事しており、本来取締役が担うべき役割を論理的な見地から包括的に理解する機会がなかった取締役も多い。一度取締役に選任されると、社外取締役であろうと業務執行を兼務する取締役であろうと、特定の機能だけでなく全社目線また株主目線で企業活動を理解しながら取締役会の構成員として経営を監督することが求められる。 そのため本稿では論理的な見地から企業価値向上のために取締役が果たすべき役割の原則を述べたい。 

【企業価値はROIC、成長、WACCのみで決まる】 

 コーポレートファイナンスの見地からは企業が一年間に生み出す企業価値はエコノミックプロフィットで表すことができる。そしてエコノミックプロフィットはROICからWACCを引いたものに投下資産を掛けて算出することができる。ROICWACCを上回っていれば当該企業は価値創造をしたことを意味し、下回っていれば価値破壊をしていたことになる。そして、企業価値は将来にわたって生み出されるエコノミックプロフィットを現在価値に割り引いた値で表すことができる。つまり企業価値は究極的にはROIC、成長率そしてWACCの僅か三つの要素で決定されるのである [図2]。言い換えると、これら三つの要素が変わらない限り、企業価値は一切変わることはないのである。例えば資産の減価償却の計上方法を変更するといった操作は企業価値とは無関係なのである。 

[図2]

  取締役会は中長期的な企業価値向上に責任を持っている以上、まずはこの原則を理解するべきである。そして取締役会として会社の業務に関する監督をするにあたっては当該意思決定がROIC、成長、WACCのいずれに貢献するかが論理的に説明されている必要がある。 

【価値破壊行為は現実に行われている】 

 これは一見自明に映るかもしれないが、必ずしもこれが正しく実践されているとは言えない。企業価値向上の観点からは経営陣が誤った判断をし、それを取締役会が看過している場合も実際にある。その典型は価値破壊を行っている事業に対する投資である。ROICがWACCを下回り、エコノミックプロフィットがマイナスの事業は、価値破壊を行っているといえる。そのような事業を成長させるために投資を行うことは、価値破壊を加速させるだけであり論理的には正しくない。当該事業で認められるべき投資は論理的にはROICを改善させるためのものだけであるべきで、ROICを改善することなく規模を拡大させるだけの投資は決して認められるべきではない。 

 しかし、現実にはそのような投資が行われている。東証一部上場企業群(金融を除く)では、2014年度時点で価値破壊を行っている1,421の事業セグメントのうち838の事業セグメントに対して17.7兆円の投下資産を増加させている(2014年度から2018年度の期間)。その結果として実に0.7兆円の価値が破壊されたのである。逆に、価値を創造している1,034の事業セグメントのうちの259の事業セグメントでは1.9兆円の投下資産が減少しており、結果として0.1兆円の価値が失われた [図3]。価値破壊事業を成長させることは価値破壊の幅を大きくし、また価値創造事業から投下資産を減らすこともまた企業の価値を棄損する行為なのである。そして、そのような行為が現実に過去には行われているのである。 

[図3] 


【経営資源投下、戦略、結果、を監督する】    

 これらの原則を理解した上で、取締役は三つのレンズで執行を監督するべきだと考えられる。一つ目は企業活動のインプットとなる経営資源投下の監督、二つ目は企業活動の戦略の監督、そして最後に企業活動から生み出された付加価値、すなわちエコノミックプロフィットという結果の監督である [図4]  。
....

マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社

■筆者略歴

野崎 大輔(のざき・だいすけ)
マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 パートナー

日本における戦略・コーポレートファイナンス研究グループのリーダー。
M&A、合弁事業立ち上げやその他のパートナーシップ締結、事業統合マネジメント、戦略立案、次世代リーダー育成など、幅広い分野に従事。日系企業のM&Aプロジェクトのプロセス全般における支援のほか、製造業、資源・エネルギー、消費財、ヘルスケア、戦略的投資家、機関投資家など、幅広いクライアントに関わる数多くのプロジェクトに従事。Kohlberg Kravis Roberts (KKR) およびゴールドマン・サックスでの勤務経験を持つ。

東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。


柳沢 和正(やなぎさわ・かずまさ)
マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 パートナー

日本におけるプライベートエクイティ・プリンシパルインベストメント研究グループのリーダーとして、プライベートエクイティおよび商社の成長戦略、M&A戦略、ビジネス・デューデリジェンス、買収後のバリューアップ、売却などのコンサルティングサービスを提供。加えて製造業企業から消費財企業まで幅広いクライアント企業に対して戦略立案やコーポレートファイナンスに関するコンサルティングサービスを提供。
東京大学工学系研究科修士課程修了。

呉 文翔(くれ・ぶんしょう)
マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 アソシエイト・パートナー

ポートフォリオ戦略、企業買収や事業売却などのコーポレートトランザクション、統合マネジメント、投資先企業の事業価値向上施策立案など豊富な専門的知見を活かして主にプライベートエクイティファンドや総合商社のクライアントにコンサルティングを提供。資源・エネルギー、電力、消費財、ヘルスケアなど、幅広い分野において数多くのプロジェクトに従事。
2015年からマッキンゼーの東京オフィスに参画。マッキンゼー入社以前は三井物産にてエネルギーセクターでの事業投資案件に従事し、数多くのクロスボーダーM&A案件を担当してきた経験を持つ。
慶應義塾大学法学部法律学科(学士)卒業/ハーバード大学経営学修士(MBA)修了。





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