[書評]

2010年1月号 183号

(2009/12/15)

BOOK『会計プロフェッションと監査―会計・監査・ガバナンスの視点から』

八田 進二 著 同文舘出版3200円(本体)

 

 
『会計プロフェッションと監査―会計・監査・ガバナンスの視点から』
八田進二著
同文舘出版3200円(本体)
 
どんな組織であれ健全に発展し、存続していくためには自らの活動の実態と成果についての正しい情報を外部にさらし、利害関係者の判断を仰ぐことが必要だ。経済社会で大きな比重を占める上場企業にディスクロージャー(開示)制度の整備が図られる所以である。
 
ところが、開示制度をめぐり、日本も一番の先進国と言われる米国でも、虚偽の財務報告など不祥事があとを絶たない。時には経済社会を大きく混乱させる。どうしたら、会計不正事件を防止できるのか。著者はこの問題意識のもと、会計学、中でも監査論を中心に研究をしてきた。その観点から、会計(基準)、監査だけでなく、企業の内部統制を中核とするコーポレート・ガバナンスも加え、三位一体で、開示制度を改革する必要性を早くから主張していた。還暦の節目を迎え、この問題を扱った論稿を集めたのが本書である。
 
まず、日本の会計と監査の問題点と現状が理解できる。90年代後半に直前の決算で公認会計士の適正意見が付されていた企業が突然破綻し、大幅な債務超過だったことが明らかになる事例が相次いで起きた。日本には会計基準があるのかとまで言われ、海外の会計事務所の要請で、財務諸表に「警句」がつけられた。会計ビッグバンで、新会計基準が次々に整備され、基準設定主体もできるなど国際的水準に追いついたという。しかし、会計基準に主眼がおかれ、監査の改革は遅れる。監査は情報の信頼性を担保するため会計プロフェッションが行い、不正の発見・摘発の機能もある。開示制度の車の両輪でもある。米国で2001年にエンロン事件が起きてから日本でも監査の重要性が叫ばれるようになり、倒産リスク情報(ゴーイング・コンサーン)の開示などが監査基準に取り込まれていく。
 
しかし、会計不正は、会計と監査の改革だけでは防止できない。情報発信主体である企業、経営者の規律が何よりも肝要である。車の両輪でなく、三位一体だ。海外では早くからその問題意識があった。米国では77年に海外不正支払防止法で公開企業に内部会計統制システムの構築義務が課された。80年代後半から、不正な財務報告の原因は、脆弱な内部統制と経営幹部の関与にあるとして、内部統制の枠組みについての報告が相次いで出される。エンロン事件を契機に企業改革法ができ、公開企業に内部統制報告制度が導入されるが、内部統制の問題は30年近い歴史があるのだ。英国でもコーポレート・ガバナンスを重視する報告が出て、経済社会に根付いていく。著者は、早くから海外の報告書の翻訳などもし、日本に合う内部統制制度の導入を提唱していた。2005年に、企業会計審議会に内部統制部会ができると、部会長となり、部会報告を取りまとめている。こうして、日本でも08年4月から開示制度の一環としてこの制度が始まった。しかし、著者は、そもそも内部統制は、健全経営を推進する仕組みであり、ディスクロージャーだけで議論をするのでなく、より広範な概念の下で検討すべきだという。
 
経済の停滞はミクロ経済レベルでみれば、個々の企業経営の脆弱性にある。監査は、この企業経営に最も密着している。しかも、扱う対象も最近は、過去情報、数字情報から、予測情報、記述情報に広がっている。財務情報から事業報告への拡大だ。これらの信頼性をどう保証するのか。監査論の研究が重要になっていることがよく分かる。(青)

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