[書評]

2010年6月号 188号

(2010/05/15)

BOOK『会計士の誕生―プロフェッションとは何か』

友岡 賛著 税務経理協会 2400円(本体)

公認会計士の仕事は外部からはつかみにくい。物事を理解するには、歴史を知ることが近道といわれるが、本書は会計士の誕生から今日、ビッグ4と呼ばれる巨大会計士事務所の生成に至るまでの歴史をたどる。繰り返される会計不正とそれへの対処など、会計士の仕事がいかに資本主義経済の発展と関わっているかが分かる。

会計士が誕生したのは19世紀後半の英国である。一足先にスコットランドで、次いでイングランドで勅許会計士団体がつくられた。プロフェッション(知的な専門職)として認められるため団体を設立したのだ。資本主義の勃興期にあった英国経済はたびたび恐慌に襲われる。破産事件が多く会計士の仕事といえば債権者のために監獄に行って破産者から事情を聞くことだった。破産が会計士の専業化をもたらしたが、特にイングランドでは厭わしい仕事に従事する者として社会的地位は低く、国王のお墨付きを求めたのだ。

経済の発展とともに会計士の仕事も変化していく。鉄道会社が大規模になり、株式を上場し、資本と経営の分離が行われると、株主のため監査が必要になった。初め、監査人は株主から選ばれていたが、株主は必ずしも会計専門家ではない。このため会計不正を見抜けず、大型倒産が相次ぎ、株主の被害は拡大した。これを防止するため専門の会計士が担う独立監査が求められるようになり、近代会計制度は完成をみる。20世紀になると、税務、経営コンサルタントの仕事も増え、米国経済の発展で活動の舞台も米国に拡大する。

会計士の組織も変わる。当初は、個人事務所でやっていたが、パートナーシップになり、やがて合併を繰り返す。ビッグ8→ビッグ6→ビッグ5になり、エンロン事件でアーサー・アンダーセンが消滅し、今日のビッグ4が支配する時代になる。こうして組織は巨大化したが、事務所の名前のルーツは、19世紀中頃の著名な会計士に遡る。プライスウォーターハウスクーパースは、S・Lプライス、ウォーターハウスの2人とクーパー兄弟の名前からなる。消えていった名前もあるが、大事な名前は消せず、長くなるばかり。どうして、こんな長い名前をつけているのかと疑問に思うことも多かったが、本書を読んで、パートナーシップを原理とするプロフェッション組織にとって創業者の名前が重要なのだと納得した。それにしても、日本の大手監査法人の名前が必ずしもそうなっていないのはなぜか。プロフェッションの概念のなさが影響しているのだろうか。

日本で公認会計士が誕生したのは1948年だ。英国から100年近く遅れている。しかも土台となるプロフェッションについて歴史もない。プロフェッションとは知的な技量をもって専門的なサービスを提供する職をいう。元々は聖職者(神学)、法廷弁護士(法学)、内科医(医学)の3つで18世紀に英国で確立した。今日では医師、弁護士、会計士が代表だが日本では会計士の認知度は低い。会計士の仕事がいわゆるBtoBであり、そもそも監査という行為が日本人のメンタリティーに馴染まないからだと指摘する。ただ著者は監査の必要性などが感じられない社会、質の低い監査で用が足りている社会のほうが過ごしやすい社会ではないかとも言う。

それにしても世界の主要企業を監査する会計事務所が英国をルーツにもち、今、会計基準が国際的に統一される動きを重ね合わせると資本主義の土台のところをしっかりと英国が押さえているのだと改めて思わざるをえない。(青)

 

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