なぜグローバルのM&A市場にはいつも魅力的な売却案件が出てくるのか
グローバルのM&A市場には、多少の繁閑の波はあっても、いつも魅力的な売却案件と、意欲的な買い手が数多く集まってくる。それは、一体なぜだろうか。
世界の主要企業は、経験から学び、戦略レビュー、事業ポートフォリオレビューなどと称して、企業戦略と事業ポートフォリオを定期的に見直している。それは、経営環境や事業の状況は常に変化するから、自社の事業ポートフォリオをいつも理想的な状態にしておくためには、買収と売却の両側をいつも検討し、実行するのが合理的で効果的だからである。だから、自社にとってはもはやノンコアになったが他社から見れば魅力的な事業を、良好な状態でM&A市場に出せるのである。
このような骨太のレビューは、何かよくないことが起きたら行うのではなく、何もなくても定期的に実施するように決めておくことが肝腎である。そうするからこそ、例えば売却の場合で言えば、業績が悪化する前に、また事業の状態が良いうちに、あるいは格好の売却チャンスが到来したときに、適切な決断がタイムリーに行える。これは仕組みをうまく作っておいて、人間側の不作為や誤作動、さらには筋の悪い恣意を抑止する手法の例である。
日本企業のマインドセットはどのように変わってきているのか
これまで日本企業は、買収には意欲的でも、売却には総じて積極的でなかった。具体的には、
■筆者プロフィール■
竹田 年朗(たけだ・としろう)
マーサー ジャパン M&Aアドバイザリーサービス部門 パートナー
株式会社大林組、マッキンゼー、ワトソンワイアット 、ベインを経て現職。
15年以上にわたり、日本企業の海外M&Aを支援している。
著書に「クロスボーダーM&Aの組織・人事PMI」(2019年)、「クロスボーダーM&Aの組織・人事手法~コントロールと統合の進め方」(2016年)、「クロスボーダーM&Aの組織・人事マネジメント」(2013年、第7回M&Aフォーラム賞奨励賞受賞)、共著に「
カーブアウト・事業売却の人事実務」(2022年)などがある。クロスボーダーM&Aに関する寄稿、セミナー多数。
東京大学法学部卒、コーネル大学MBA修了。