[Webマール]

(2025/08/18)

成長投資なき株主還元、日本企業が抱える「限界費用ゼロ社会」の罠

前田 昌孝(マーケットエッセンシャル主筆、元日本経済新聞編集委員)
  • 有料会員
上場企業の自社株買いが大幅に増え、自己株式(金庫株)を除く上場株式数の減少が続いている。一定の仮定を置いて試算すると、2024年度は上場企業が株主に還元した資金は配当を含めて37兆8192億円と、市場から調達した2兆1607億円の約17倍になった。純利益の61.7%を株主に還元したことになる。米国企業は利益の約9割を株主に還元しているが、日本も早晩、同じようになるかもしれない。
自社株買い実施額が急増

 上場企業の発行済株式数は株式分割や併合に伴って大きく増減するが、すべて権利落ち修正を施したうえで増減を計算してみると、プライム上場で1年前も上場していた1611社のうち、2025年3月末の「自己株式を除く発行済株式数」が2024年3月末を上回っていたのは696社、下回っていたのは911社だった(残りの4社は不変)。

 「自己株式を除く発行済株式数」は増資をしたり、役員や従業員に株式報酬を渡したりすると増加し、自社株買いをすると減少する。株式数が減少した911社について、2024年度の株価の平均値(月間終値の年度平均値、権利落ち修正済み、以下同じ)に株式の減少数を掛け合わせると、おおよその自社株買いの実施額が推定でき、15兆4300億円になっていた。

 現在のプライム上場企業について、2016年度から2023年度にかけても同様の計算をしていくと、各年度の自社株買い実施額が推定できる。図表1は現在のプライム上場企業の配当総額、自社株買い実施額、純利益の合計額、配当性向、配当と自社株買いを合わせた総還元性向を2016年度にさかのぼって描いたものだ。



■ 筆者履歴

前田 昌孝

前田 昌孝(まえだ・まさたか)
1957年生まれ。79年東京大学教養学部教養学科卒、日本経済新聞社入社。産業部、神戸支社を経て84年に証券部に配属。97年から証券市場を担当する編集委員。この間、米国ワシントン支局記者(91~94年)、日本経済研究センター主任研究員(2010~13年)なども務めた。日経編集委員時代には日経電子版のコラム「マーケット反射鏡」を毎週執筆したほか、日経ヴェリタスにも定期コラムを掲載。 22年1月退職後、合同会社マーケットエッセンシャルを設立し、週刊のニュースレター「今週のマーケットエッセンシャル」や月刊の電子書籍「月刊マーケットエッセンシャル」を発行している。ほかに、『企業会計』(中央経済社)や『月刊資本市場』(資本市場研究会)に定期寄稿。

この記事は有料会員限定です

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

関連記事

バックナンバー

おすすめ記事

アクセスランキング