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[M&A戦略と法務]

2021年1月号 315号

(2020/12/15)

M&Aにおける職務発明に係る相当利益の請求権の法的処理

尾城 雅尚(TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士)
落合 一樹(TMI総合法律事務所 弁護士)
第1 本稿の目的

 特許を有する企業のM&Aにおいて、しばしば発明者とその発明者が職務発明により発明した特許が、それぞれ承継対象とされる事態が生じ得る。かかる場合に、特許実施により得られた企業の利益等を算定根拠とする「相当の利益」(特許法35条4項)を請求する権利(以下「相当利益の請求権」という。)の帰趨につき、複雑な問題が生じ得る。具体的に、当該M&Aにおいて発明者又は特許の承継(場合によっては分属)が生じた場合に相当利益の請求権を法的にどのように整理し、処理をすべきかという問題である。本稿では、この問題に対し、論理的な整理 (注1)と共に実務上の対応を示すことを目的とする。


第2 相当利益の請求権の分析

 M&Aにおける相当利益の請求権の帰趨については、前提として相当利益の請求権の法的性質がどのようなものであるのかという点の検討が必要となる。この点、検討の基礎として、相当利益の請求権が特許法、労働法という別々の目的を有する法律に関連する権利であるという本質をまず確認する必要があり、それぞれの法律の趣旨に即した解釈/取扱いを検討する必要があろう。

 すなわち、相当利益の請求権については、以下の3つの性質を常に意識しながらその帰趨を検討すべきものと言える。

(ア) 承継可能性を持つ通常の私権であり、会社分割計画や事業譲渡契約における合意によって承継の有無を決定できるという性質。
(イ) 発明者を保護し、発明のための正当なインセンティブとして機能させる観点から特許法に基づいて認められる権利であるという性質。
(ウ) 職務発明規程が一種の就業規則として労働契約の一内容と解される性質を持ち、労働者の権利保護との関係でその帰趨を検討すべきという性質。

 なお、本稿においては、もっぱらM&Aを実施する際の行為規範として「どのような処理を行うべきか」という点に注力して記述をしているが、明示的な処理を定めずにM&Aが実施されてしまい、結果的に相当利益の請求権の帰趨をどのように考えるべきかが不明瞭となっている場合には、上記の性質と矛盾のない形で当事者の意思解釈を行い、本稿にて指摘した種々の要請も考慮しながら妥当な解決を関係者の間で目指すことになろう。


第3 会社分割と相当利益請求権

1. 発明者と対象特許の承継パターンについて

 以下では、典型的な例として会社分割を前提に、M&Aが実行された場合の相当利益の請求権の法的処理に関し、発明者とその発明者が職務発明により発明した特許の承継パターンごとに実務上の処理に関する考察を試みる。

 具体的には会社分割の結果として相当利益の請求権を有している発明者とその発明者の生み出した発明に対する特許権の承継パターンの整理として、以下の表に掲げる4つのパターンを想定し、パターンごとに考察することとする。

特許の帰属
承継会社分割会社
発明者の所属承継会社(1)(3)
分割会社(2)(4)

2. (1)のケース

 (1)のケースは、発明者及び特許の両方が承継会社に承継されるものであり、論点となる基本のケースでもあるため、まずこのケースを検討することとする。

 この点、相当利益の請求権の私権としての性質を前提とすれば、理論上は相当利益の請求権を承継会社に承継させず、分割会社に残すということも可能ではある。しかしながら、そのような扱いは現実的でもなく、仮に会社分割契約(計画)に何らの記載が無い場合であっても、当事者の合理的意思解釈として、相当利益の請求権に対応する義務も発明者共に承継会社に移転させるという考え方が妥当である。

 そこで、このケースでは

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