[M&A戦略と法務]
2014年11月号 241号
(2014/10/15)
第1 はじめに
近時、企業の再編・統合において多く利用されている会社分割において、分割会社の労働者との間の労働契約を承継会社又は新設会社(以下総称して「承継会社」という)へ承継させる場合、会社分割に基づいて、労働契約を承継会社へ承継させる(すなわち、吸収分割契約書又は新設分割計画書(以下総称して「分割契約等」という)において、承継する権利義務の中に労働契約を規定する)のではなく、分割会社の労働者から転籍同意を取得して、承継会社へ承継させる(すなわち、分割契約等において承継する権利義務の中から労働契約を除外する)ケースがよく見られる(以下「転籍同意方式」という)。
これは会社分割に基づいて労働契約を承継会社へ承継させる場合、従前の労働条件がそのまま承継会社に承継されることになる(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(以下「労働契約承継法」という)3条)が、転籍同意方式によれば、労働者から転籍同意を取得する際に労働条件を変更することについても同意を得ることで、例えば、従来の分割会社における労働条件を不利益に変更し、承継会社の労働条件と同内容に変更することができるからである。
もっとも、転籍同意方式を採用して、労働契約を承継会社に承継させる場合、労働者に対し、どのような説明を行うべきか、また、労働契約承継法に基づく手続の要否については、学説・判例においても十分な議論がされておらず、実務上も明確とはなっていなかった。すなわち、労働契約承継法は、承継される事業に従事している労働者との間で労働契約の承継に関して協議することを求めており(商法等の一部を改正する法律(平成12年法律第90号)5条1項)(以下「5条協議」という)(注1)、また、分割会社は、会社分割に当たって、労働者及び労働組合(注2)に対して、当該会社分割に関する事項を通知することを必要としている(労働契約承継法2条1項)(注3)が、承継会社へ転籍することについて同意している労働者に対しても、かかる手続が必要であるかが問題となっていた(注4)。
このような状況の中、最近、会社分割における転籍同意方式の労働契約の承継の有効性について判断した裁判例(阪神バス事件・神戸地尼崎支判平成26年4月22日労働判例ジャーナル28号18頁)が出ている。そこで、本稿では、阪神バス事件を紹介した上で、会社分割における転籍同意方式を採用する際の実務上の留意点について検討したい。
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