[M&A戦略と法務]

2015年3月号 245号

(2015/02/15)

アウトバウンド型のM&Aの留意点

 中川 紘平(TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士)
  • A,B,EXコース

第1 はじめに

  円安や中国等における人件費の高騰等を理由に一部で日本回帰の傾向が出てきているとはいえ、日本企業による海外企業のM&A、いわゆるアウトバウンド型のM&Aは依然として増加する傾向にあり、昨年、日本企業によるアウトバウンド型のM&Aの件数は、過去最高を更新したといった報道もなされているところである(注1)。

  もっとも、アウトバウンド型のM&Aは、単純に件数が増加しているだけでなく、その種類や内容にも変化が見られる。M&Aの目的としては、従来は、海外に生産拠点を確立することを目的としたものが中心であったが、昨今は、新しい市場開拓のためにアウトバウンド型のM&Aを行うというケースもかなり増えてきている。また、M&Aのプレーヤーという観点では、かつては商社等の大企業が中心であったのが、今では、中小企業が当事者となるケースもかなり増えてきている。

  本稿では、このような増加、多様化しているアウトバウンド型のM&Aにおける法的な留意点を今一度整理してみたい。

  なお、アウトバウンド型のM&Aといっても、当然、規制は国ごとに大きく異なっているため、実際にM&Aを実行するにあたっては、当該国の規制内容を十分に調査して進める必要がある。しかし、本稿では、紙幅の関係から、各国の規制について個別に検討するというアプローチではなく、アウトバウンド型のクロスボーダーM&A全般において典型的に問題となり得る点を網羅的に記載する点ご了承頂きたい。

第2 外資規制

  アウトバウンド型のM&Aを検討する際、まず注意をしなければならないのは、外資規制の問題である。

  日本においても、海外投資家による日本企業の株式等の取得については、外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という)によって、一定の業種や国・地域等に対する投資について事前届出が必要とされていたり、一定の割合以上の株式等の取得について事後報告の義務が課せられているのと同様に、海外においても、一定の累計の投資について外資規制が課せられているというケースは多い。国によっては、そもそも特定の事業領域については、外国資本が株主となることが禁止されている例、外国資本が株主となること自体は規制されていないが、出資比率が規制される例等がある。前者であれば、そもそも日本企業が投資をすることはできない、ということになるであろうし、後者であれば、日本企業と一緒に投資をして、合弁会社のパートナーとなってくれる企業(以下「パートナー企業」という)を見つけ、一緒に投資をしなければならないということになり、いずれにしてもM&Aの実行には大きな影響を与える。

  特に途上国においては国内企業や産業の保護のため、このような規制が設けられている国が多いため、外資規制はまず何よりも先に調査をしなければならない項目となる。

  なお、上記のような外資規制のある国の中には、パートナー企業が合弁会社の株主となるために出資する金銭は外国資本である企業が貸付ける等し、パートナー企業は名目的な株主となる、いわゆるノミニー(名義貸し)の仕組みが事実上普及している国もある。このような仕組みは法の潜脱という見方もあり得るため、買収にあたって、このような仕組みを採用するかは、各国の法律事情を検討して慎重に判断する必要があろう。

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