第一 はじめに 平成二一年二月三日、東京高裁において、いわゆる村上ファンドのインサイダー取引に関する旧証券取引法(以下「法」)(注1)違反事件(以下「本件」)の第二審判決(判例集未登載)が言い渡された。本件の第一審判決(東京地判平成一九年七月一九日判例集未登載)は村上ファンドの代表者であった村上被告に実刑の有罪判決を下していたが、第二審判決は、有罪判決である点では変わらないものの、インサイダー取引の要件である業務執行決定機関の「決定」の意義に関する解釈について第一審とは異なる判断を示し、また村上被告に対する実刑判決を取り消して執行猶予付き判決を下した。そこで、本稿においては、「決定」についての判断と村上被告に対する量刑判断について、第一審判決及び第二審判決を比較検討することとする。その上で、両判決で判断が分かれた背景についても考察を加えたい。