[M&A戦略と法務]

2017年3月号 269号

(2017/02/15)

M&Aのプロセスにおける基本合意書の位置付け

 岡部 洸志 (TMI総合法律事務所 弁護士)
  • A,B,EXコース

 

第1 はじめに

  M&Aの実現に向けたプロセスにおいては、合併契約等の最終契約の締結に先立ち、当事会社間において、基本的な取引条件や独占交渉権等に関する条項を規定した基本合意書が締結されることがある。当事会社が基本合意書を締結する目的は様々であるところ、特に上場会社を当事会社とするM&Aにおいては、基本合意書の締結がM&Aのプロセスに与える影響を十分に考慮したうえで、基本合意書の締結のタイミングや内容を検討する必要がある。

  本稿においては、主として上場会社を当事会社とする組織再編型のM&Aを念頭に置いたうえで、最終契約に先立って基本合意書を締結する意義を概観するとともに、M&Aの検討・交渉過程で基本合意書を締結する場合の留意点について整理を試みる。

  なお、基本合意書において一般的に規定される条項に関しては、独占交渉権条項にいかなる法的効果が認められるか(注1)、いわゆるFiduciary Out条項(注2)を規定すべきか、といった法的な観点からの検討を要する論点もあるが、紙幅の関係上、本稿においては、基本合意書において規定される個々の条項の内容に関する分析には立ち入らない。

第2 基本合意書を締結する意義

1. M&Aの実現可能性の確保


  基本合意書を締結する第一義的な目的として、最終契約の締結に向けた検討・交渉過程における当事会社間の暫定的なコンセンサスを書面化して確認することで、M&A実現の確度を高めることが挙げられる。M&Aの実現に向けた検討・交渉又は準備の過程において、当事会社は多くのコストを費やす必要があるが、万が一、M&Aが実現しなかった場合には、費やしたコストの多くが無駄になってしまう。そのため、M&Aの実現について一定程度の確度が担保されていなければ、当事会社が、M&Aの本格的な準備・交渉を開始することが困難な場合がある。

  基本合意書の締結は、当事会社間で暫定的なコンセンサスの内容を確認し、M&Aの実現に向けた意識付けが行われる点で、M&Aの実現の確度を高める機能を有する。

2. 基本合意書の締結に伴う案件の公表

  基本合意書を締結するタイミングでプレスリリースを行い、検討・交渉中の案件を公表するケースがある(注3)。M&Aの実現に向けた検討・交渉段階で案件を公表するメリットとして、下記(1)乃至(3)で挙げるものなどが想定されるが、実務上、基本合意書の締結は、そのようなメリットを享受するため、案件を公表すること自体を目的として行われるという側面もある(注4)。

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