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[M&A戦略と法務]

2017年4月号 270号

(2017/03/15)

ブラジルにおけるM&A‐事業の一部を取得するM&Aの方法‐

 柏 健吾(TMI総合法律事務所 弁護士)

1. ブラジルにおけるM&A

  ブラジルのM&Aの手法としては、日本と同様に、大きく分ければ、株式取得、合併、株式交換、第三者割当増資、一部の事業の取得(会社分割又は事業取得)があるが、このうち株式取得がもっとも一般的な手法である。株式取得であれば、株式の譲渡だけであるため手続きが簡便であるし、対象会社が保有する許認可もそのまま利用できるため、事業継続に問題がないからである。

  株式取得の方法であれば、そのプロセスも契約書(株式譲渡契約)の内容も日本の実務と大きく異なることはない。日本の実務と異なる点の1つとしては、対象会社が多くの潜在債務(労務訴訟や税務訴訟等)を抱えていることが多いため、当該潜在債務が顕在化したときの補償請求を担保するため、売買代金の支払いに工夫が必要なことがあげられる。どのような方法を取るかは当事者間の交渉次第であるが、エスクロー口座を利用することもよく行われる。エスクロー口座を利用するための手数料を避けるため売買代金の一部を支払留保する方法もとられることがあるが、これは買主の資金や信用に依存するため、売主との交渉次第となる。

  一方、一部の事業のみの取得の場合は検討すべきことが多い。まず、後述のとおり、一般的には3つのスキームが考えられるが、日本では一般的には用いられないスキームもある。また、会社分割や事業譲渡についても日本のそれと異なることが多い。そのため、まず、それぞれのスキームの違いやメリット・デメリットを理解する必要がある。また、事業運営に必要な許認可についても十分に検討しておく必要がある。事業の取得の場合は許認可を承継させることができないため、買収にあたり、その許認可が再取得可能か、再取得可能であるとしてもどの程度の期間がかかるのかを確認しておく必要がある。さらに、許認可と同様の問題として税務恩典がある。ブラジルでは税金が非常に高く、かつ、複雑であるため、税金の一部免除や手続きを簡易化する恩典が事業運営の重要な要素となっていることがある。そのため、対象となる事業に重要な役割を果たしている税務恩典がある場合、かかる恩典が再取得できるかについても確認が必要である。

2. 一部の事業を取得するためのスキームの種類

(1) 3つの選択肢

  一部の事業を取得する方法としては、大きく分けて、Cisão(以下「スピンオフ」という)、Dropdown(以下「ドロップダウン」という)及びContrato de Trespasse(又はAlienação de Estabelecimento。以下「事業譲渡」という)という方法がある。スピンオフは、日本法で言えば会社分割、ドロップダウンは現物出資のようなものである。すなわち、スピンオフにおいては、事業を承継する会社(以下、いずれのスキームにおいても、事業を承継又は取得する会社を「承継会社」又は「譲受会社」という)が、事業を分割又は譲渡する会社(以下、いずれのスキームにおいても、事業を分割又は譲渡する会社を「分割会社」又は「譲渡会社」という)の株主に対して株式を発行する。日本法でいういわゆる人的分割の形である。ドロップダウンにおいては、承継会社が、分割会社から事業を現物出資として受ける代わりに、分割会社に対して株式を発行する。事業譲渡においては、譲受会社は、譲渡会社に対して、対価(一般的には金銭)を支払う。

  なお、事業譲渡の場合、譲渡の対象が「事業」に該当するか否かで手続きや効果が変わってくる。「事業」は、民法(2002年法10406号)において、「企業家又は法人が事業を行うために組織された物の集合体」と定義されているが、これに該当しない場合は、単なる資産の譲渡となる。資産の譲渡であれば、個別の資産の売買になるので手続きが簡略化される。また、後述のような債務の承継の問題も生じない。

(2) 新会社の設立

  スピンオフ及びドロップダウンの場合は、一般的には、分割会社が新会社を設立した上で、当該新会社に事業を移転し、その後買主が当該新会社の株式を取得する方法が用いられる。

  新会社を設立することなく、買主自身がスピンオフ又はドロップダウンの承継会社になることも理論上は可能であるが、買主が承継会社になると、買主自身が新たに株式を発行しなければならないため、買主の既存株主との関係や新株式発行のための手続きを考慮しなければならなくなる。また、売主が自己の100%子会社である新会社に事業を承継させる方法であれば、グループ内の組織再編と扱われ、間接税が課せられないが、買主が承継会社になると、通常の資産の譲渡として間接税が課せられる可能性がある。そのため、スピンオフ及びドロップダウンの場合は、新会社を設立することが一般的である。

  事業譲渡の場合は、新会社を設立したとしても組織再編とみなされずいずれにしても間接税が発生する。そのため、間接税の観点から見ると、新会社を設立せずに買主が直接事業を取得しても違いはない。

3. 各スキームの相違点

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