レコフデータは1985年以降のM&Aデータベースを構築しています

キーワード 一覧

[M&A戦略と法務]

2017年11月号 277号

(2017/10/17)

フェア・ディスクロージャー・ルール導入に伴うM&Aにおける実務上の留意点

 池田 賢生(TMI総合法律事務所 弁護士)

1.はじめに

  平成29年5月24日に公布された「金融商品取引法の一部を改正する法律」(平成29年法律第37号)において、企業が、未公表の決算情報などの重要な情報を証券アナリストなどに提供する場合、他の投資家にも公平に情報提供することを求める、いわゆるフェア・ディスクロージャー・ルールが導入された。このフェア・ディスクロージャー・ルールは、近年、企業の内部情報を顧客に提供して勧誘を行った証券会社に対する行政処分の事案において、当該企業が当該証券会社のアナリストのみに未公表の業績に関する情報を提供していたなどの問題が発生していたことを受けて導入されたものであり、M&Aに関して規制することを目的とした制度ではないが(注1)、本稿においては、当該フェア・ディスクロージャー・ルールの概要を紹介したうえで、当該フェア・ディスクロージャー・ルールの導入に伴い、M&A実務に与える影響の有無及び留意点を検証することとしたい。

2.フェア・ディスクロージャー・ルールの規制内容

(1)規制の概要

  今般導入されたフェア・ディスクロージャー・ルールは、金融商品取引市場において、個人投資家や海外投資家を含めた投資家に対する公平かつ適時な情報開示を確保し、全ての投資家が安心して取引できるようにするために導入されたものであり(注2)、概要、上場会社等が、未公表の重要な情報をその業務に関して証券会社及び投資家等に伝達する場合には、意図的な伝達の場合は同時に、意図的でない伝達の場合は速やかに、当該上場会社等に当該情報を公表することを求める規制である。

(2)規制の対象となる情報の範囲

  フェア・ディスクロージャー・ルールの対象となる情報の範囲については、改正後の金融商品取引法27条の36第1項において、上場会社等の運営、業務又は財産に関する公表されていない重要な情報であって、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼすものとされている。当該範囲については、「金融審議会市場ワーキング・グループ」の下の「フェア・ディスクロージャー・ルール・タスクフォース」(以下「本タスクフォース」という。)において、近年の証券会社への行政処分の原因となった事例を踏まえると、例えば、公表直前の決算情報であれば、機関決定に至っていない情報や軽微基準の範囲を超えない情報であっても、投資者の投資判断に影響を及ぼす重要な情報となる場合があり得ると考えられるため、こうした情報を全て対象から外してよいかという問題提起のもと、インサイダー取引規制の対象となる情報の範囲と基本的に一致させつつ、それ以外の情報のうち、発行者又は金融商品に関係する未公表の確定的な情報であり、公表されれば発行者の有価証券の価額に重要な影響を及ぼす蓋然性があるものを含めることが考えられるとされ(注3)、上記のとおり規定されている。このため、例えば、M&A情報のうち、インサイダー取引規制の対象であるものについては、通常、フェア・ディスクロージャー・ルールの対象となる情報と整理されるものと考えられるが、たとえ、インサイダー取引規制の対象でない軽微基準に該当するものについても、投資者の投資判断に影響を与えるものは、フェア・ディスクロージャー・ルールの対象と整理されることになる点に留意が必要と考えられる(注4)。

(3)規制の対象となる情報提供者の範囲

  本タスクフォースにおいて、フェア・ディスクロージャー・ルールの趣旨が、発行者に対して、公平かつ適時な情報開示を求めるものであることから、当該ルールの対象となる情報提供者の範囲について、発行者の業務遂行において情報提供に関する役割を果たし、それに責任を有する者に限定することが適当であるとされており(注5)、これを受け、改正後の金融商品取引法27条の36第1項において、情報提供者の範囲は、以下の者に限定されている。

① 上場会社若しくは上場投資法人の資産運用会社、
② ①の役員、又は
③ ①の代理人又は使用人その他の従業者のうち、後述(4)の情報受領者に情報を伝達する職務を行うこととされている者

(4)規制の対象となる情報受領者の範囲

  フェア・ディスクロージャー・ルールの対象となる情報受領者の範囲についても、本タスクフォースにおいて、当該ルールの趣旨が、発行者による公平かつ適時な情報開示に対する市場の信頼を確保するためのものであり、また、金融商品取引法が資本市場に関わる者を律する法律であることを踏まえ、有価証券の売買に関与する蓋然性が高いと想定される者とすることが適切であるとされたことを受け(注6)、改正後の金融商品取引法27条の36第1項1号及び2号において、情報受領者の範囲は、以下の者(以下「取引関係者」という。)に限定されている。

① 金融商品取引業者、登録金融機関、信用格付業者若しくは投資法人等又はそれらの役員等、又は
② 上場会社等の投資者に対する広報に係る業務に関して重要情報の伝達を受け、当該重要情報に基づく投資判断に基づいて当該上場会社等の上場有価証券に係る売買等を行う蓋然性の高い者

  なお、①に該当する者の中には、金融商品取引業者としての登録を行いながら金融商品取引業以外の業務も行っている企業もあるため、金融商品取引業に従事していない部門から従事している部門に重要情報が伝達されないような適切な措置(いわゆるファイアウォール)が採られていれば、①の対象者から除外することとされている(注7)。また、②に該当する者についても、内閣府令で具体的に規定される予定であるが、例えば、当該上場会社等の投資者に対する広報に係る業務に関して重要情報の伝達を受ける株主、機関投資家などが想定されている(注8)。

(5)公表が不要な情報提供

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、EXコース会員限定です

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

[無料・有料会員を選択]

会員登録

バックナンバー

おすすめ記事

【第4回】 M&A戦略の類型(2)製品開発型

スキルアップ

[【M&A戦略】M&A戦略立案の要点(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)]

NEW 【第4回】 M&A戦略の類型(2)製品開発型

木俣 貴光(三菱UFJリサーチ&コンサルティング コーポレートアドバイザリー部 部長 プリンシパル)

【第3回】取締役会はいかに価値創造に貢献するべきか

スキルアップ

[【企業変革】価値創造経営の原則と実践(マッキンゼー・アンド・カンパニー)]

NEW 【第3回】取締役会はいかに価値創造に貢献するべきか

野崎 大輔(マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 パートナー)
柳沢 和正(マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 パートナー)
呉 文翔(マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 アソシエイト・パートナー)

M&A専門誌 マール最新号

マールマッチング
M&Aフォーラム
NIKKEI TELECOM日経テレコン
日経バリューサーチ

M&A専門誌マール

M&A専門誌マール

「MARR(マール)」は、日本で唯一のM&A専門誌で、「記事編」と「統計とデータ編」で構成されています。

レコフM&Aデータベース

レコフM&Aデータベース

「レコフM&Aデータベース」は、日本企業のM&Aなどどこよりも網羅的に、即日性をもって構築している日本で最も信頼性の高いデータベースです。

セミナー

セミナー

マールの誌面にご登場いただいた実務家、研究者などM&Aの専門家を講師としてお招きし、成功に導くポイント、M&Aの全体プロセスと意思決定手続き、実証研究から見た分析などについてご講演いただきます。

SPEEDA RECOF

SPEEDA RECOF

「SPEEDA RECOF」とは「レコフM&Aデータベース」と株式会社ユーザベースが開発・運営する企業・業界情報プラットフォームである「SPEEDA」がシステム連携します。

NIKKEI TELECOM日経テレコン 日経バリューサーチ

日経テレコン

2002年7月に、日本経済新聞デジタルメディアが運営する日経テレコンの「レコフM&A情報」を通じてM&Aデータの提供を開始しました。

M&Aに関するお問い合わせ、ご相談は
こちらからお気軽にお問い合わせ下さい。

お問い合わせフォーム