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[【小説】新興市場M&Aの現実と成功戦略]

2019年2月号 292号

(2019/01/18)

第46回『優秀層とは何か』

神山 友佑(デロイト トーマツ コンサルティング パートナー)

【登場人物】

三芝電器産業 株式会社
Reddy Electricals (照明・配線器具製造子会社) への出向者 (CEO)
狩井 卓郎
Reddy Electricals (照明・配線器具製造子会社) への出向者 (営業管理担当役員)
小里 陽一
Reddy Electricals (照明・配線器具製造子会社) への出向者 (生産管理担当役員)
伊達 伸行
Reddy Electricals (照明・配線器具製造子会社) への出向者 (経営管理担当)
井上 淳二
Reddy Electricals (照明・配線器具製造子会社) への出向者 (経理担当)
朝倉 俊造
佐世保電器 (三芝電器産業の系列販売店舗)
店主 
岩崎 健一
旗艦店の店長
古賀 一作

(会社、業界、登場人物ともに架空のものです)

(前回までのあらすじ)

 三芝電器産業の朝倉俊造はインドへの赴任を命じられた。1年半ほど前に買収したインドの照明・配線器具メーカー(Reddy Electricals)への出向である。
 インド固有の課題に悩まされ、そして創業家側の旧経営陣との軋轢を生みながらも、朝倉の先輩である日本人出向者達は、生産革新や流通改革に矢継ぎ早に取り組んでいった。
 朝倉の赴任も数カ月を過ぎた頃、インド全国への視察を終えた営業管理担当の小里陽一が本社に戻ってきた。そして小里のサポートを命じられた朝倉に対し、「代理店制度の廃止に加えて、抜本的な営業改革を断行したい」と言い放ち、朝倉にボード・ミーティング向けの企画書を作成させた。
 苦労しながらも何とか企画書の承認を勝ち得た朝倉は、すぐに改革を走らせようとする。しかし三芝電器には直営営業所の営業ノウハウが存在しない。本社からのサポートを得られなかった朝倉は、新入社員当時に実習で派遣された故郷の諫早電器店に電話した。そして10年以上前に研修で世話になった店主から、県内で優秀系列店として有名だった佐世保電器店の岩崎を紹介された。岩崎は腹心の古賀を連れてムンバイの地に降り立った。そしてレッディ社の直営店舗に対する、岩崎と古賀からの非公式な教育が開始された。
 そんなある日、本社に戻った朝倉は営業担当取締役である小里に声をかけられ、目下の営業改革について議論が始まった。議論は狩井宅での恒例の合宿議論に持ち越され、最終的に本社から投資を呼び込む手段としてコモンウェルス・ゲームズが活用されることになった。全員が一丸となり本社や関係会社との折衝に取り組んでいる中で、今度は製造管理担当の伊達から狩井に納入部品に関する問題提起がなされた。
 日本では考えられないようなトラブルに日々見舞われていたが、狩井はじめ日本人駐在員は徐々にインドでのビジネスの手ごたえをつかみつつあった。そしていよいよ、新たな外部の血を取り込みながら、本格的なPMI=M&A後の経営改革の幕が切って落とされた。


社長のレッディ社訪問

 三芝電器産業社長の訪印まで3カ月を切った。朝倉主導で進むBetter Workplaceプロジェクトも、社長視察までに何を成し遂げられるかという見極めの局面に入っていた。
 朝倉が考えている職場環境改善の取り組みは、大きく2つに分かれる。従業員全体に対して行うものと、もう1つは特に優秀層に対してレッディ社へのロイヤリティを高めるために行うものだ。予期せず朝倉のアイディアを聞いた4人の討議は、ランチ時間を終えた後も誰も席を立つことなく続けられた。

人をつくってきたか

 井上が口を開いた。
 「小里さんの言うとおり、我々は物をつくって売る前に、一度立ち止まって、レッディ社で人を作ることをきちんと考えるべきなのかもしれません。私も赴任してから早くも2年が経とうとしています。日々の様々なトラブル対応に追われ続けたという事情はありつつも、私は事業計画の進捗をどうすれば適正化できるかばかり考えてきました。言い換えれば、業績数値にばかり一喜一憂してきた毎日だったのかもしれません。末端のワーカーまでの人づくりを真剣に考えてきたのかと問われれば、正直自信はありません」
 しばらく全員が黙り込んだ後で、伊達が頷きながら話し始めた。
 「お前だけじゃないさ。ローカルと向き合い続けた小里さんは違うかもしれないが、少なくとも俺は自信がない。毎日毎日、増産と品質のことばかりを考えてきた。もちろん製造を支えるワーカーのことだって考えてきたつもりだが、『人づくりをしてきたか』と問われればそれは違うと思う。少なくとも俺たちの創業者が『三芝は人をつくる会社です。併せて電気器具もつくっています』と言い切ったレベルでは全くない」
 そこまで聞くと、小里が低い声でつぶやいた。
 「結局のところ皆同じということだな。自分は営業本部でローカル社員を大胆に登用し、日々一緒に汗を流してきた。ただそれは結局のところ、ローカルを頼ったというだけの話であって、決して人づくりを念頭に置いたものじゃない。もちろん私たちの仕事の仕方を見て、ローカルも三芝電器とは何かを学んでくれているだろう。しかしながら『人づくりが最も大事だ』という重要な理念をここにきて思い出しているようでは、我々はきちんとそれを実践したり浸透させたりはできていないのは明らかだ」

狩井CEOの狙い

 井上は立ち上がると、テーブルの上の空になったピザの箱とコーラの缶を片付け始めた。そして消毒用のウェットティッシュでテーブルの上を軽く拭くと、明るい声で話し始めた。
 「Better Workplace Projectの指示を出したのは狩井さんだ。また社長訪印を決めたのも

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